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2018.12.21

販売士

笑顔と若々しい声がコミュニケーションの 妙薬となる

 

声のトーンの裏には心理が潜む

 あるテレビ番組で興味深いテーマを扱っていました。「なぜ女性は電話の対応時に声が高くなるのか?」というテーマです。私も日頃から社内の女性スタッフの電話対応の声を聞いて不思議に思っていました。日常会話では低い声の人も電話では高いトーンで対応しています。新人の女性では「〇〇でございまぁす。」と語尾を高く引っ張る傾向もあるため、注意をし改めさせる事もしばしばあります。この現象は一体何なのだろう?と不思議でした。

 その番組で心理学者はこう解説をしていました。「一般的に多くの女性には若く見られたいという潜在意識が働いています。電話ではお互いに顔が見えず声だけがコミュニケーション手段になりますから、声のトーンを高くすることで“子供っぽさ→小さい・若い→無害で安全な存在→好印象”というイメージをつくる無意識の心理が働いているのです」。

 なるほどと私は深くうなずきました。外出先から会社に電話を掛けた時、女性スタッフに低い声で対応されると「あれ、体調が悪いのかしら?」とか「何か機嫌が悪いのかしら?」と身近な存在だけに心配な気持ちになります。多少高めの声のトーンで対応された方が元気→好印象に感じ、経営者としては安心につながります。これが未知の相手やさほどに親しくない相手であればなおのこと、低い声では不安や活気のなさを、高い声であれば若々しいはつらつさや安心感を感じるものです。

 声のトーンの裏にはいろいろな心理が潜んでいるものなのですね。目から鱗の番組でした。

 声のトーンで思い出されるのは、通販大手「ジャパネットたかた」の髙田前社長の声です。音声分析の専門家によると個性的な高い声は聞く人を気持ちよくさせる効果があるそうで、あの高音が売上を上げる秘密だったのですね。

 また、髙田社長の声で泣いていた赤ちゃんが泣きやむとかペットの鳴き声が静かになるとか不眠症の人が眠気に誘われるとか…いくつかの都市伝説がささやかれています。どちらにしてもあの独特の高い声は地声ではなく、販売のために発声していた、つくられた高音だったそうですから、驚きの商人魂です。

 

笑顔の効能

 数日前の雨の夜、都心から自宅までタクシーを利用しました。仕事のもめ事や体調不良でイライラしていた私は雨にもうんざりし、車の後部座席にドカンと座りました。行き先を告げた時に返ってきた声「〇〇町ですね、承知いたしました」が爽やかなトーンで素敵です。

 何となく話しかけたい気分になった私は「運転手さん、最近タクシー業界の景気はどうですか?」と声を掛けてみました。そこから約30分のあいだ自宅までの移動時間にタクシードライバーと気候の話や地名の由来やら他愛のない会話をしたのですが、とてもテンポよく気の利いた受け答えをしてくれるドライバーで好印象を持ちました。

 もちろん私は後部座席ですからドライバーの後ろ姿しか見えません。聞くとドライバー歴は1年半でまだ新人だというので前職をたずねると、マクドナルドにアルバイト時代から約20年間も勤めていたそうです。「あなたの会話力や対応力はまさにマクドナルドのキャリアが作り上げたものですね!」と伝えるとその背中で「本当に多くのお客さんと会いました。ありがたい経験です」と答えてくれました。

 そして自宅に到着し代金を払う私に、くるりと上半身を回転させとても明るい笑顔で「楽しいお話をありがとうございました」と言ってくれました。40代の普通のオジサンの本当に魅力的な笑顔に私の目はくぎ付けになりました。素敵な笑顔は人に安心や信頼を与えてくれるものです。ストレスを溜め込んでいた私は笑顔も忘れていた自分に気付かされ、彼の笑顔に癒された気分になりました。マクドナルドで鍛え上げられた笑顔の効能は素晴らしく大きなものでした。

 

基本の基本“笑顔と若々しい声”

 声の話と笑顔の話をしましたが、この2つが掛け合うことで人がどんな気持ちになるのかを知る体験をしました。

 私の母は老人ホームに入居して10ヶ月になります。多少の呆けはありますが89歳の元気な母はホームの生活に順調になじんでいます。スタッフの方々がいつもニコニコの笑顔で、どんな多忙の時でも嫌な顔もせずに働いている姿には頭が下がります。1日に何度も部屋の見回りをしてくれます。この時も笑顔と元気な声で「シマムラさーん」と耳の遠い母に声掛けをしてくれます。中には若い職員さんが母とハイタッチをしてくれる場面もあり驚きでした。

 こんな母の日常なのですが、たまたまホームの人手不足や病欠のため臨時スタッフ対応になったとき、母から毎日電話があり「家に帰りたい」と言うようになりました。原因を探るとそこにはスタッフの変化があり、仕事は万全であっても笑顔と親しみある声掛けが欠けていたようです。老人になり子供返りをしている母の心理には笑顔と心地良い声のトーンという2つの要素が安心・信頼のバロメーターになっていたのです。

 

 “笑顔と若々しい声”このセットは仕事でも日常生活でも相手が自分を良い方向に導いてくれる好薬だと思います。笑顔と元気な声なんてコミュニケーションの基本中の基本なのですが基本すぎて忘れがちです。“基本に戻れ”と自らを戒めるお話を今回は自分のためにも語らせていただきました。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第31号(平成30年12月10日発行)女性視点の店づくり⑯掲載)