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2014.02.03

不動産フォーラム21

どうなる?ネット時代のリアル店舗

 

ネットとリアルを融合させる「オムニチャネル」

 「オムニチャネル」という言葉を小売りの世界で耳にするようになりました。
オムニとはラテン語で“すべて”を意味する言葉で、小売業が持っている店舗、テレビショッピング、テレビCM、カタログ通販、インターネット上のEコマース、SNSなど、あらゆる顧客接点を連携させて販売につなげようとする考えや施策のことです。

 2000年代に「マルチチャネル」という言葉がありましたが、これは客と店、客とEコマス、客とカタログ通販というように、複数のチャネルはあってもチャネルごとにサービス内容はことなっていて、チャネル同士が結びつくことはない状況をさしていましたが、「オムニチャネル」はサービス内容だけではなく裏側のオペレーションやデータ管理が一本化されており、客はどのチャネルから入っても連携したチャネルの中でよりよいサービスが得られる仕組みなのです。特にスマートフォンのような常に持ち歩ける端末が普及した結果、客は時間と場所を問わずに買い物ができるようになりましたから、複数の販売チャネルをシームレスに接続することによって、どのチャネルからでも客の購買体験を提供しようという進化した動きが始まっています。

 オムニチャネルの動きが日本よりひと足早いアメリカでは、世界最大の小売業ウォルマート(スーパーマーケットチェーン)がオムニチャネルに力を入れているそうです。
例えば、ウォルマートの客は食料品や日用品等の決まったものを定期的に購入する人が多いわけですが、買物を便利にするために買い物リストを作成するスマートフォン用のアプリを提供し、そこには購入履歴や音声認識を使った検索機能が付随されており、ごく簡単に商品をリストアップできるようになっています。またそのアプリではウォルマートの店頭に行くと商品のある棚位置や在庫状況もわかり、お買得情報、イベント・新商品情報も表示されるという親切ぶり。もし在庫がない場合にはスマートフォンからECサイトに入り注文ができ、商品が自宅に届けられるだけではなく希望によっては後日店頭受け渡しができるという徹底した顧客利便重視を実現しています。要するに、ネットと店が「事前に手伝えること」や「店内で手伝えること」を上手に役割をかえてサポートしてくれているわけです。

 

日本のオムニチャネルが始まった

 日本では2013年頃からセブン&アイ・ホールディングスやイオンが「オムニチャネル戦略」の準備段階に入っており、徐々に態勢を整えていくと発表しています。

 例えば、傘下にGMS・百貨店・コンビニエンスストア・専門店を持つセブン&アイではグループ全体で扱う300万商品をネット購入でき、実店舗でまとめて受けたり、自宅へ配送するシステムを18年度までに実現すると発表しています。百貨店で手に取って試してみたヴァンクリーフ&アーペルの100万円のダイヤモンドネックレスと、スーパーで定番で買っているいつもの紀州の梅干し1パックと3歳乳幼児の肌着と、ついでに最近美味しいと評判の北海道米5㎏をセブンネットショッピングサイトで注文して、後日、ご近所のセブインイレブンで受け取ります、みたいなことが当たり前に出来るようになるそうです。

 イオンでは店頭で見た商品のバーコードをスマートフォンで撮ると「イオンネットスーパー」に接続され、ネットショッピングができ即日宅配となったり、店頭の商品と同様の色違いや別メーカー商品をネットで確認でき、店頭の数倍の商品幅からチョイスできるという、店とネットを連携させたチャネル展開がすでに昨年12月オープンしたイオン幕張新都心店で始まっています。

 どちらも、まだ産声を上げたばかりのビジネスなので便利なようなややこしいようなピンと来ないところもありますが、消費者ニーズにマッチして急成長を遂げていくのでしょう。

 

多くの人が実行している「ショールーミング」

 私の消費行動にネットと店舗を都合よくつかっている買物行動があります。最もズウズウしくやっているのがゴルフ用品のショッピング。気になるゴルフクラブ等のギアがあると、ゴルフ専門店に出かけ、試打や試着をしてみます。店ではあくまで「おためし」。ほしいと思ったらiPadからアマゾンや楽天のサイトにアクセスして購入します。お店には申し訳ないのですが、ネットの方が安いし、持ち歩かなくてよいので楽な買ものです。書籍も同様、本屋にフラリと立ち寄りおもしろい本を発見すると、スマホで撮って、後でネットから注文する。価格は変わりませんが、重い本を持ち歩かなくともOKなのはありがたい。これはまさに店頭をショールムのように使っている「ショールーミング」と名付けられた最近の消費者行動なのです。

 この「ショールーミング」は、店舗にとっては困った傾向で、私の行くゴルフショップでは何らメリットがないように、家電量販店でもショールーミングの客が増加して、ヤマダ電機のように売上を大幅に落として苦戦を強いられている店舗が続出しています。

 の見には繰来るけれど買わない店離れを食い止めようと、店舗側は様々な施策を打ち、ネットショッピングより安い価格設定を行ったり、接客に力を入れたり、店頭立ち寄りのポイントを付与したりと工夫をしていますが、ショールーミングの動きは広まる一方のようです。

 このような中、レディースファッションメーカーであるクロスカンパニー(9ブランド、全国600店舗展開)は、今年、試着専用の店を都内に出店する予定と発表しました。まさにショールミングをどんどんやってください、という姿勢を打ち出すそうです。その店で試着して気に入った服はスマホのアプリで注文し自宅に配送。通常店舗より在庫を抑えられる省エネ小型店となるので、賃料の高い都心駅ビルにも出店可能となり新たなビジネスチャンスととらえているそうです。これもオムニチャネルの一端ですね。

 また日本のファッション・ネットコマースサイトの大手“ZOZOTOWN”は、客が“WEAR”というモバイルアプリを使ってサイトに参加しているファッションショップでほしい服のバーコードをスキャンするとZOZOTOWNで購入となるショールーミングサービスを昨年からスタートして話題になりました参加ショップはネット購入であっても売上になりますが、問題となるのは、ファッションショップに床をリースしている商業施設側です。店舗で売上が上がらなければディベロッパーの家賃収入は減ってしまいますから、この“ZOZOTOWNのWEAR”はディベロッパーにとって困ったサイトなわけです。有力ファッションビルであるルミネでは、テナントに対しお客様が店頭で商品のバーコード撮影をするのを禁止させるよう通達をだしました。が、それとは対照的に、パルコではZOZOTOWNの運営会社であるスタートトゥデイと提携を結び、PARCOの出店テナントがZOZOTOWNに客を誘導したときは、手数料を受け取るということで同意したそうです。どちらがネット時代のリアル店舗を束ねる今後のディベロッパーの生きる道なのか、判断が難しいところですね。

 

 2012年の電子商取引(EC)市場は9兆5千億円で5年間で80%の伸びを示しています。おそらく数年のうちに20兆、30兆へとEC市場は拡大していくことでしょう。近頃は、生鮮食品もECによる宅配の利用が進み20EC12年度のネットスーパーによる食品宅配市場は940億円だったそうですが、シニア層の増加や共働き世帯の増加で需要は伸び、「生ものであってもECで」という消費者感覚が当たり前になっていくことでしょう。

ネットとリアル店舗の関係がこれから大きな変化を迎える時、消費者がどのように2極を上手に使いこなすのか、10年後の姿が楽しみです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2014年2月号掲載)