不動産フォーラム21
洞爺湖のコスプレ・川崎のハロウィン
―異文化&時間蓄積が街をにぎやかにする―
北海道 洞爺湖でコスプレパーティを!!
先日、愛知県の小さな街で「街の活性化」をテーマにした講演会によばれ「街のにぎわい工夫」についてお話をしてきました。講演終了後、市議会委員から「北海道の洞爺湖でおもしろいイベントを仕掛けている」との話題提供があり、会場内の人々の関心を集めました。年に一度、洞爺湖に日本中からコスプレファンが集まるイベントが開催されるというのです。
洞爺湖は、北海道南西部にある湖で道内の有名観光地の一つですが、景観は美しいもののこれといった目玉もなく、何度かドライブの途中で立ち寄ったことはありますが「地味な観光地」の印象が残っていました。その洞爺湖とコスプレがあまりにかけ離れたイメージなので興味を持ち、「街の活性化?」として調べてみました。
このイベントは「TOYAKOマンガ・アニメフェスタ」という正式名称で、2010年より毎年6月に2日間をかけて開催される北海道洞爺湖温泉でのイベントです。当初は2010年に洞爺湖温泉が誕生100年記念事業の一環として企画されたものでしたが、反響が大きく翌2011年から洞爺湖温泉観光協会が中心になって毎年開催となり、2010年に3,000人だった来場者が2013年には4.9万人も洞爺湖に訪れる話題のイベントに成長しています。
2日間の内容は年々中身の濃いものになっているようですが、基本はアニメ原画展、同人誌即売会、声優によるトークショー、コスプレパフォーマンス、痛車ミーティング等々に、ちょっとカタ目の観光関連フォーラムが開かれています。面白いプログラムが“温泉街まるまるコスプレ会場”というもので、温泉宿に泊まり温泉街を散策したり温泉に入ったりレストランで食事をしたり買い物したりと、温泉旅行では当たり前の観光行動をコスプレスタイルで思いっきり楽しんでみましょう、という単純なプログラムではあるのですが、全国からコスプレファンがキャリーバック(スーツケース)にたくさんのコスプレ衣装を詰め込んでコスプレ開放区である洞爺湖に集まり、着替えては街を練り歩く、を1日に何度も繰り返し、人に見られることを楽しみ、同じ趣味を持つ仲間をつくり、アニメ等の主人公になりきりパフォーマンスで自分にうっとりするという時間を楽しむイベントです。ここでは1日に何度も着替えられることがポイントになるそうで、宿に泊まらに人のためには主催者が有料でロッカールームを設備したり、街の古い温泉旅館でメイドカフェを開店してお茶会が開かれたり、夜はコスプレダンスパーティが開かれたりと衣装替えのトリガーも様々計画しないと遠来のコスプレ客は満足していかないという主催者苦労もあるようです。
また痛車ミーティングも新客層を洞爺湖にもたらしています。痛車(イタシャ)とは2007年ごろから若者言葉として登場しており、アニメやゲームのキャラクター及びロゴのシールを貼ったり塗装されている車を指します。この二次元キャラクターをボディ全体にあしらった車は、所有者(ドライバー)がオタク系であることが多く、所有者本人が自嘲して自分自身を“痛い”、車を痛い車ということから“痛車”という言葉が一般化し始めました。2013年にはタクシーやフェラーリの痛車も洞爺湖では参加展示があり、マニアを喜ばせたそうです。全国の痛車ファンの間では洞爺湖が痛車のメッカとして認められつつあるそうです。
温泉街にコスプレや痛車という異なるものの組み合わせが、3,000人から集客をして3年間で5万人弱の集客イベントに育ってゆく。まさにスキ間を集客のポイントにした「インパクト街づくり」の好事例です。
18年目のハロウィンまつり
最近、商業関係者の間でバレンタインデーやホワイトデーよりもハロウィンが魅力的だという意見が多く聞かれるようになりました。理由は、バレンタインやホワイトデーは男女間の広がりだが、ハロウィンはファミリーやグループの広がりになり、義理が介在しないから不況のときにも強いといわれています。たしかにこの数年、10月のハロウィン時にはパーティ帰りの仮装をした家族連れが街の中を歩いたり女子高生たちが仮装したまま山手線に乗り込んで来たりと、仮装スタイルが街の中に自然と増え、「ハロウィンなんだなあー」とほほえましく思えるようになってきています。
さて、そのハロウィンを川崎市ではすでに18年前より「街おこし」のイベントとして取り組み続け、今では3日間で11万人もの人々が川崎を訪れるという日本最大のハロウィンの仮装パレードに成長させました。あまりにもハロウィンパレードに多くの見学者が集まり、ノリノリになるため安全面では市や警察が細心の注意を払うほどになっているそうです。
事の始まりは1997年。当時、横浜や東京に挟まれて客が流出傾向にあった川崎中心部では、何とか街ににぎわいのインパクトをつくれないかと検討した結果、日本では当時ブームにもなっていないハロウィンに他都市が未着手だからと目をつけて仮装行列を始めたことが、継続は力なりで、今では日本最大級のパレードになり川崎を有名にしました。余談ですが、あの東京ディズニーランドでもハロウィンパーティを始めたのは川崎と同じ1997年ですから、市の関係者の先見性が評価されるところです。
ハロウィンの魅力は女性&子供、グルメと仮装、という遊び好きなターゲットに変身と美味というプリミティブな
欲求のツボを押すところだと思いますが、川崎のハロウィンは、仮装にジャンル制限がないので、お化けやアニメ、ゲームキャラクターから自分で想像したオリジナルキャラクターまで、幅広い仮装の人々3,000人(事前有料登録)が川崎駅東口を練り歩いて、踊ってははしゃいだりと高テンションで、それを見に来る人々も仮装派が多くいて、ファミリー、仲間、犬までもがこの「街のパーティ」を楽しんでいて、川崎が一年間で最も輝くハッピーな一日になる日だそうです。
18年間イベントをじっくり時間をかけて育てると日本で一番の「街おこし」になるものですね。
街のにぎわいの工夫とは
私は、冒頭の愛知県の小さな町の講演会で「街のにぎわい」について話をした折、街はさまざまな人々を受け入れる大きな器だとイメージしましょう。とお話ししました。それはまるで大きなガラスのサラダボールのように、
いろいろな野菜やフルーツがボールに入っていると見た目にも楽しく鮮やかで食欲が増すし、食卓がそのサラダの存在でにぎやかになるものです。街も同様に面白いコト、新鮮なコト、いやされるコト、安心なコト、触発されるコト、心地よいコト等々がたくさん詰まっている器=街であるほどに魅力的に見えると思います。そこには、人の新しい動きを認める環境や、やる気のある人々の力が不可欠ですし、小さなことを定期的におこし続ける地道な努力も必要、また一人の力より複数の力で、1箇所より同時多発の複数個所での変化おこしが大切だ、
というような、街のにぎわいの工夫をお話ししました。
洞爺湖、川崎の話はまさに異文化の受け入れや新しい人の動き、人の許容、定期的努力の積み重ね等、想像力、生命力、連帯力の結集が、街の新たなるパワーとして実を結んだ、好ましい「街のくふう」だと思います。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2014年5月号掲載)