ストアーズレポート
変化を迎える札幌商業のにぎわい拠点化
コロナ禍が沈静化した2023年秋、札幌では複数の商業施設が開業し注目された。2030年の札幌駅新幹線延伸に合わせ街中でオフィスや商業開発の計画が複数進行しているが、これらは先駆け施設だ。札幌商業は、2030年を目指しエポックメイキングの時を迎えている。
●北海道全域が商圏 進む“札幌一極集中化”
札幌市は約197万人で増加傾向にあり、過去10年間でも103.54%の人口が増えている。中心部の中央区ではマンション建設がラッシュで、10年間に113%の人口が増えた。特に札幌駅徒歩圏エリアではタワーマンションが立ち並び、街の風景が一変している。中央区の新築マンション価格は平均230万円/坪(ファミリータイプ)だが、札幌駅近タワーマンションは380万円/坪となり億ションが次々に販売している。積雪寒冷地札幌なので郊外から交通利便性の高い中心部へ移転するミドル・シニア層や、首都圏から札幌ライフを楽しむ富裕層が転居している。
札幌は電車で45分圏内の岩見沢市、江別市、北広島市、恵庭市、小樽市、石狩市を含めた約245万人が中域商圏人口で、日常的な来街がある。一方、広域商圏でみるとオール北海道約510万人が札幌市に集まってくる。それは第2規模都市が旭川市32.3万人、第3都市は函館市24.2万人という小規模都市のため、娯楽や商業集積のある札幌に道内から人が集まりやすい。週末や連休にはファミリーやグループで宿泊しながら市内の映画やグルメ、ショッピングを楽しんだり、車で片道3時間をかけ買い物をして日帰りする人も多くいる。札幌中心部マーケットの約3,000億円の売上はオール北海道集客によって成り立っている。
近年はインバウンドの北海道人気も高く、コロナ前の2019年には244万人が北海道を訪れた。北海道に来るインバウンドは訪日外国人旅行者全体の18%を占め、その過半が札幌に立ち寄ることも商業活性化に貢献している。
●2003年を機に「サツエキ」エリアが飛躍
2010年までの札幌商業は大通りエリア(丸井今井札幌・札幌三越・4丁目プラザ・札幌PARCO・ピヴォ)と、札幌駅前エリア(大丸札幌・東急百貨店・アピア・エスタ・パセオ・札幌ステラプレイス)の2エリアに分かれていた。エリア間は1kmで地下鉄1駅だが、寒冷地のため消費者は大通り派と駅前派に分かれ、往来は少なかった。明治からの繁華街の狸小路がにぎわい、この地域に地域一番店の丸井今井札幌や札幌PARCOもでき、長らく札幌のにぎわい拠点であった。
2003年、札幌駅に大丸札幌や札幌ステラプレイスやバスセンターが誕生し、消費者に駅の商業利便性が評価され駅エリアは大きく飛躍することになった。【図1】が示す通り、2003年までは大通りエリア対駅前エリアは6対4の売上げ比較だったものが、今では3対7に逆転している。
私は札幌ステラプレイスのコンサルタントとして開業前から活動している。JRタワー開業前は「何もない駅でファッションなど売れない」「ダサいJR北海道に期待できない」「大丸??大通りの大丸藤井セントラル(文房具店)が駅にも出店するのか?」などと言われ駅エリアの弱さを痛感したが、20年経過した今ではテナントに「出店するなら駅前」と評価されるようになった。このエリア間の対立構造は近年新たな商業動向が起こり、変化の時を迎えている。
●ニューフェイス商業誕生
【図2】は札幌中心部の新商業マップで、旧商業施設と2020年以降に開業した主な施設を示している。
街が大きく変化したのは2011年3月に地下鉄南北線さっぽろ駅と大通駅を結ぶ「札幌駅前通地下歩行空間(約520m、幅員20m)」が開通したことだ。この歩行空間の完成で人々は札幌駅と大通駅間を歩くようになった。地下商店街ではないので通路に店舗はないが、歩行空間に接するビルでは地下1階に直結した飲食や物販の商業ゾーンを設け人々を呼び込んでいる。また、気軽に往来する人々が増えた事で大通りエリアでは新しい商業施設が複数開業し市場に刺激をもたらした。このニューフェイス商業と従来の定番的商業の動きを紹介しよう。
狸小路と札幌駅前通の交差点角に2023年3月に再開発組合をつくり開業させたのが「moyuk SAPPORO」で高層オフィス、住宅の低層部に地下2階~7階(約6,000坪)が商業施設となっている。この施設はダイソーの「スタンダードプロダクツ」や「ロフト」の大型雑貨店が入店し若年層や女性層の来店が多い。近年、東京などの都市型商業では水族館やデジタルアートライブラリーなどのコト寄りコンテンツが導入されているが、この館では道内初の都市型水族館「AOAO SAPPORP」を3層で展開し、開業来50日間で18万人の来場者が楽しんだときく。この物売りだけではないエンタテインメント導入も、新しい商業の取り組みとして注目できる。
すすきの交差点に位置する「COCONO SUSUKINO」は2023年11月に開業した。上層階にはシネコン(10スクリーン)とホテル(7階~18階・436室)がある複合ビル(16,100坪)で、低層に85店舗の商業があり「一日中遊べる、ススキノになる」とPRするだけに楽しい要素が詰め込まれている。地下2階には地元食品スーパー「Daiichi」が入店。昼も夕方も食材を買う客で入店が絶えない。地下1階は食物販フロアでスイーツや生鮮三品、ワインショップなど22店が札幌グルメを提供し、観光客にも魅力的なフロアだ。4階はレストラン街でオープンテラス風のカジュアルな環境づくりでぎわっている。
札幌駅前通沿いの大同生命ビルの地下1階~2階は地下歩行空間に直結した「miredo」という15店舗からなる商業ゾーンが2020年にでき、地域の馴染みゾーンになっている。2階には「icoi Lounge」というデザイン性ある美しい広場がつくられ、寛ぐ人々の姿がある。飲食店は寿司屋やスープカレー店などSNSで人気が拡散している店が常に行列をつくっている。地下歩行空間直結ビルの中では最も成功した施設だ。
札幌中心部ではないが、札幌の副都心である新札幌の駅前に2023年11月に開業した「BiVi新さっぽろ」(1階~4階・約6,000坪)は開業以来、地域住民いこいの施設として好評だ。副都心である新札幌駅はマンション、学校、オフィス、医療機関などが駅前にあるが大型商業施設は1970年代・80年代開業の古い施設が主だった。多くの人々はお楽しみの買い物や食事には札幌へ出掛けていたが「BiVi新さっぽろ」はこんなニーズをうまく受けとめ、飲食店ゾーンや大型雑貨店を集め“コハレ利用”ができる商業を実現した。さらに雪の日でも公園のようにゆったりできる「BiVi PARK」という館内アトリウムをつくり、子連れファミリーに人気を博している。
定番商業では駅前エリアの代表である札幌ステラプレイス(約10,000坪・230店)がコロナ禍後の回復が早く売上げを伸ばしている。新幹線延伸工事に伴い駅前の4館のうち2館が閉館(パセオ2022年、エスタ2023年)となり、飲食や買い物の場が2館(札幌ステラプレイス、アピア)に集中したことも好調要因である。特にレストランフロア(6階)の21店舗はインバウンド利用もありフル回転だ。2023年度の売上高は開業以来最高売上げになることが予想されている。
大通りエリアの代表である「札幌PARCO」(94店舗)の売上高は2002年230億円をピークに下降線を辿り、競争激化により2022年には100億円になってしまった。しかし、地下街ポールタウンから直結する地下2階、地下1階は強いフロアで21年9月にリニューアルをしトレンドファッション雑貨店やジェラートショップを導入し華やかだ。1階は4丁目交差点角の立地を生かしインバウンド来店も多く、日本ファッションブランドを充実させ紹介している。
百貨店は2003年以降、大丸札幌の躍進が大きく、すでに売上高591億円(全国百貨店26位)で地域一番店となっている。特に婦人服や化粧品・食料品に強い。老舗の丸井今井札幌本はミドル・シニアの富裕層を保持している様子がうかがえる。
●冬季五輪がトリガーに
近年の札幌商業は4段階の流れにより形成されている【図3】。明治以来、狸小路とその周辺に商業のにぎわいが生まれ、丸井今井札幌や札幌三越などの百貨店が開業し街の中心であった。1972年札幌冬季オリンピック開催に合わせ札幌市都市整備が進み、オリンピック前に代表百貨店の増床や4丁目プラザ開業(1971年)があり、オリンピック開催直後に駅前エリアの東急百貨店(1973年)、そごうが出店したエスタ(1978年)、大通りエリアにダイエー(1973年、後に1997年ピヴォ)、札幌PARCO(1975年)などが誕生し札幌市中心部の商業の基礎が形成された。
その後変化のない4半世紀を経て2003年駅エリアに大丸札幌・JRタワー(札幌ステラプレイス)の開業となり前述したような大通りエリアから駅エリアへにぎわいの拠点が移動し第2フェーズとなった。
その後約20年が経過した現在は札幌商業の第3フェーズであり、大通りエリアの代表格であった4丁目プラザが2022年に閉館、ダイエー時代から50年目の2023年にピヴォが閉館し建替え計画が進行している。駅エリアでは札幌冬季オリンピック開催を目指した動きの中で北海道新幹線が函館から札幌まで延伸する2030年(予定)をふまえ、工事に絡むパセオが2022年、エスタが2023年に閉館となり、2028年には新幹線新札幌駅前に新複合ビル開業が予定されている。これらは第4フェーズの動きとなり冬季オリンピックをトリガーとした活性化プロジェクトとして期待されたが、昨年札幌市は冬季オリンピック招致活動を断念した。市中心部の開発計画の多くは冬季オリンピックという目標を失ったが、計画は進行している。
●第3フェーズ新商業に芽吹きを発見
札幌中心部商業の動きは他大都市に比べてスローペースだ。百貨店や大型SCの力が強く競争がないため冒険的な事や実験的な事が試せない環境をつくり出していたのではないだろうか。しかし、第3フェーズの2020年~2023年に開業した商業施設には新しい時代を予感させる魅力的な工夫がいくつも発見できる。
1つは新空間の提案だ。「miredo」や「D-LIFEPLACE(第一生命ビル)」、「BiVi新さっぽろ」には安らぎ寛げる空間提供がある。フェーズ2までの商業は売上げの床づくりを重視する傾向にあるが、モノが売れにくくリアルショップの集客が難しい時代だからこそ“街の中の自分の居場所⇔サードプレイス”を第3フェーズのディベロッパーは楽しくつくり出している。
2つめは食へのこだわりだ。「COCONO SUSUKINO」では帰宅途中のオフィスワーカーが“角打ち”できるワインや日本酒の酒屋が人を集め、上川地方の畜産業者が出店しイートインスペースでステーキが楽しめ、「miredo」では東京で人気のベーカリーが気軽に買える食の専門店が構成されている。従来デパ地下に限定されていた食の楽しみ店が商業施設の中で気軽に利用できるようになった。さらに「飲食スタイル」もオープンテラスや屋台スタイルでよりカジュアルな店舗空間をつくり出し「BiVi新さっぽろ」2階の“飲食ゾーン”や「COCONO SUSUKINO」4階の“COCONO 横丁”など楽しそうに食事を楽しむ大勢の来館者の笑顔が見られる。
フェーズ2までの時代はアパレルが中心の店舗構成で売上をとる時代だった。しかし、フェーズ3以降は老若男女が関心を持つ“食へのこだわりやヘルス&ビューティー、生活を彩る雑貨”などの領域が新商業の主役となっている。まさにコロナ禍を経て人々の生活価値軸が激変した事を実証できるにぎわい構成である。
3つめは札幌における人流の捉え方だ。老舗百貨店と長い付き合いであったはずのラグジュアリーブランドの「ルイヴィトン」が2店目を昨年11月に駅前の札幌大丸に出店し話題となった。大通りエリアに行かずとも主な人気ラグジュアリーブランドが駅エリアで揃う体制となったわけだが、ラグジュアリーブランドが出店場所をドライに判断する時代になった。他都市でも今後は同様な出来事は起こりえる。
さらに国内でも外国人にも人気の国内・海外スポーツブランドが従来のSCに関心を示さず人流の多い地下歩行空間に顔を出し始めた。例えば「モンベル」や「ニューバランス」がその例だが、大型SCのスポーツゾーン(主に上層階)の一角に出店してきたパターンが従来だったが、インバウンドが気付きやすく人流のある立地を路面店や地下に見つけ店を構える出店方法が札幌では始まり今後も続きそうだ。逆に従来型SCではこれらカテゴリーテナントへの対策を打たなくて上層階活用が難しくなるという課題が生まれる。
どの点も2000年代から変化の乏しい札幌市場にフェーズ3が刺激を与え、フェーズ4の芽出しとなっている。
●第4フェーズで多様化に拍車
【図4】はこれからの開発計画の主要なものをプロットした図である。外資のラグジュアリーホテルの進出や新ビル低層の商業ゾーンも数多く計画され、大通り公園も民間事業者が参画する新しい公園スタイルで再生される予定だ。そして駅前には新幹線駅と大型新ビル(商業、オフィス、ホテルなど)が開発される。
これからの動きでオール北海道の人々やインバウンドの流れにより街のいたる所ににぎわい拠点が生まれ、札幌商業の魅力が増すことを期待したい。
(記:島村 美由紀/ストアーズレポート2024年3月号 第65号(令和6年2月28日発行))