繊研新聞
「OLファッションの崩壊」
OLファッションが崩壊している。長年、働く女性の主力ファッションであったフェミニンやエレガンスというテイスト領域のブランドが、近年売り上げを落とし、店舗数を減少させている。これは全国のファッションMDの主軸を担った領域が消滅することを意味する。実はこの現象は単純な流行変化ではなく、20~30代女性が生きる社会環境変化に起因しているのだ。
OLがいなくなる?!
日本経済は若い女性にも厳しい現実を突き付け、女性を取り巻く社会環境が変化、低迷している。不況下、企業の人件費削減で女性の正社員雇用率が低下、02年と12年の比較では女性正規雇用率平均は50.7%→45.4%、15~24歳は64.7%→61.3%、25~34歳は63.3%→60.5%と下がり、若い女性の10人中4人は不安定な非正規雇用の労働力となり、この傾向は年々強まっている。女性の収入も減少し、平均年間給与は00年と10年の比較で、20~24歳が13万円減、25~29歳が7万円減、30~34歳が12.8万円減少と、各年代で10年間に5%の収入減である。若い女性は消費分野で敏感に時代を察知する先駆者であった。特にファッションは、女性たちが子供時代から関心を持ち、社会人になって大きく花開く消費分野であり、OL層が他社への伝播力を持ち、ファッション分野における市場規模拡大の中核をなしていた。しかしこの物語は昔話となり、若年人口減少と長期不況でOL層が少数派になった今がある。
長期不況はファッションビジネスにも変革を迫り、日本や欧米の衣料品メーカーがコスト削減のため生産地をアジアに移転した。中国からカンボジア、ミャンマーへと生産地はアジアの奥へ移りつつある。その結果、パターンや縫製の簡素化、扱いやすい素材への切り換えや安価化に伴い、ファッションは複雑工程の正統派ファッションからカジュアルデザインの軽装化が世界的な潮流となった。これは日本においても老若男女問わずカジュアルファッションの日常化を促進させた。さらに、05年に政府温暖化政策で始まった“クールビズ・ウォームビズの普及”が男性ビジネススタイルを大きく変えたが、女性のオフィスファッションにも大影響を及ぼし、ショートパンツ、素足、キャミソール&カーディガンなど広範囲なカジュアルファッションを職場に定着させた。これにより働く女性の服装ルールやマナーは従来の慣習が希薄化され、前述のカジュアルファッションの日常化に加速をつける流れとなった。
女性の意識変化
80年代までは20代で結婚する女性が大半で、“結婚適齢期”という言葉が通用したが、10年には25~29歳の60.3%、30~34歳の34.5%が未婚で、“適齢期”はすでに死語となった。この傾向は97年以降、男性も減少の一途にある個人所得と単身者でも快適に暮らせる3次産業の発展により、結婚よりシングルライフに生活の自由度や豊かさを見いだす女性が増えたことが一因と考えられる。
この女性の意識変化は消費市場の変化をもたらし、長期化したシングルライフで自分への投資チャンスが増え、ファッションのみならずグルメやレジャーやカルチャー、スポーツなど広範囲の消費活動が長期化することになり、様々な分野で独身女性が不況の中でも市場を牽引している。しかし女性の経済事情は厳しくなっているため、ファッション支出は絞られ、以前のような晴れ着、通勤着、普段着というTPOに対応したワードローブではなく、オンでもオフでもシーンに関わらず着回しが可能なファッションスタイルへのニーズが高まり、結果的にフォーマル(オン)市場の縮小とカジュアル(オフ)市場の拡大が顕著になった。
F1リアルファッション
丸の内、霞が関、新宿、汐留で通勤女性ファッションの定点観測を実施、7割が今時のカジュアルファッションだ。メディア系企業が多い汐留はリゾート地へ直行出来そうなおしゃれ系、財閥系企業の多い丸の内は品の良いきれい目系、霞が関はクールビズ本拠地だけに機能重視の軽装とカジュアルにも個性がみられた。
働く女性の今時カジュアルファッションは、モード・スイート・ストリートなど幅広いテイスト領域を着回し&着こなしのコストパフォーマンスのよい編集型で、自分おしゃれを楽しむ“F1リアルファッション”を生み出している。それを察知して、すでに主力SCでは従来OL領域からF1リアル領域にテナント入れ替えを実施、有力アパレル企業は基幹ブランドのテイスト変更やカジュアル領域の仕舞いブランド新設など変わる女性市場にマッチする「買わせるブランド」「買わせる業態」を生み出している。
OLファッションの崩壊は新市場の始まり。あなたの売場はこの女性変化の潮流をキャッチアップできているだろうか。
(記:島村 美由紀/繊研新聞STUDYROOM 2012年11月13日掲載)