販売士
“フードコート”のいまとむかし-長居OK。あなたのサードプレイスに-
皆さんは「フードコート」をよく利用されますか。くらしの身近な「フードコート」はありますか。そうそう「フードコート」とはショッピングセンター(以下SC)等の商業施設に複数の飲食店が軒を連ね、客席を共有するという便利な飲食業態です。古いものから新しいものまで多様なフードコートが日本にはありますが、私は、この20年間で変化と進化を遂げ“キラキラ度”を増した業態のひとつが「フードコート」ではないかと思っています。
●「お客さんは食器を下げてくれるか?」で議論した20年前
フードコートは1980年代にアメリカのSCで生まれた業態です。当時アメリカ旅行に行くと、大空間にケンタッキーやマクドナルドやダンキンドーナツ、サブウェイ等が並んで店(カウンター)を出し、何百というテーブルで地元の人々がハンバーガーを頬張っていた姿に度肝を抜かれ“The America”を感じました。その後、1990年代には日本のGMS(総合スーパー)でもアメリカの真似をして大規模ではなく中規模にファーストフード店や焼きそば、たこ焼き等の店を複数店並べた、安価で食事ができる場として日本的なフードコートが誕生して、お客様の利便が図られました。
しかし当時はファーストフードを嫌う人が今より多く、安価→質が悪いと評価される時代だったので、フードコートの評価はけして高いものではありませんでした。2000年代初期、今では日本のトップクラスになっているSCの開発を進めていたとき、最新型フードコートの300坪を計画しました。その当時の議論を思い出してみると、「お客さんは食器を片づけてくれるか」「大空間で客席共通、誰が掃除をするのか」「長居する人がいるのでは」「なか島区画は成立しないのでは」、また別の郊外SC開発では「ファストフードなしで一般飲食店が出店してくれるのか」「ただっぴろい空間でお客さんが飽きるのでは」「カウンター前に行列ができたらどう処理をするか」と、今では笑い話になるような事柄をフードコート開発の課題として検討していました。中にはファストフードを入れるとせっかくの施設ブランドが大衆的になりお洒落ではなくなるという考えもありました。さらに計画が進むと銀座や渋谷のリッチな有名店構成の高級フードコートや、地元有名店だけのローカルをテーマにしようというようなこだわり個性派も検討するようになりました。
フードコート黎明期には、こんな試行錯誤を繰り返し、トライ&エラーで業態が磨かれていったわけです。
●「仕上がり」もある進化業態
進化のポイントの一つ目は、フードコートは集客力あり。人手不足時代にオペレーション効率よし。SCの目玉として迎えられる。という利点が、日本にフードコートが上陸して30年が経過した今、フードコートが事業者(テナント)から注目されている点です。その結果、力のある店は全国区も地方区も関係なく出店し、レストラン街以上のバラエティゾーンになっています。そば・うどん・ラーメンだけでなく、専門性をうたう海鮮丼・親子丼・天ぷら・小籠包・グルメバーガーもあり本格的。何より女性にうれしいのはアイスクリームや焙煎コーヒー・パンケーキなどのスイーツショップもそろっていることではないでしょうか。最新フードコートは顔ぶれ多彩です。
ポイントの二つ目は、大空間のスペースづくりが上手になったことです。以前のような座席どりではなく、椅子席にソファー席、グループが使えるブースゾーン、おひとり様用シングル席に電源付きのワークスペース。テラス席、ファミリー席、幼児連れのための畳敷き小上がりゾーンとキッズのプレイルームあり、というように多種多様なスペースとシートが作られています。あわせて環境は以前の奇をてらったような派手派手しいデザインが少なくなり、ナチュラル・シンプル・モダンでオーソドックスになってきたようです。
このような進化のポイントから、多くのお客様から“居心地のよさ”“使い勝手のよさ”が評価され人を集め、今ではSCの中でもフードコートはキラキラNo.1ゾーンになっています。
ある都心のSCでは開業当時2階に作ったフードコートをリニューアルで1階中央ゾーンに移動して効果を出し、SC入館数増加となりました。またフードコートは若い人やファミリーのためだけでなく、一人暮らしのミドルやシニアの食事処になり、高齢化の受け皿にもなっています。
「長居するお客さんがいたらどうする」の感覚は、今では昔々の意識。今では「あなたのサードプレイス・街の中の居心地よい居場所として活用してください」という積極的で開かれた場に作り替わった事が、お客様の心を捉えたキーポイントになったと思います。
(記:島村 美由紀/販売士 第51号(令和5年12月10日発行)女性視点の店づくり㊱掲載掲載)