販売士
“告知” 貼る前にもう一度チェックを。
この号から「キラリと光る店づくり」というテーマで連載をスタートする事になりました。今までは8年半にわたり「女性視点の店づくり」をテーマに書いてきたのですが、今回のリニューアルはSDGsが叫ばれる時代の価値観変化があらわれた重要なターニングポイントだと感じています。それは消費者ニーズが多様化するいま、ジェンダー平等を当たり前とするリテールビジネスの自然な流れだと思うからです。
ひと昔前は「女性ならではの目線で」とか「男だと気付かない女性感性で」というような仕事の依頼が常でした。私はニコニコ顔で頷いていたのですが心の中では「男とか女ではなく個の視点なのに」と思っていました。ようやく個を軸にする小売りのあり方を考えられる時となり嬉しい限りです。
“キラキラ光る店”とは難しいお題ですが、多様なライフスタイルを持つ消費者の個の価値観にピタッとくる店の工夫や気配り等をご紹介したいと思います。
●“わかるけど引っかかる”微妙な違和感
コロナ禍で街に増えたモノのひとつに“告知”があります。行動制限解除になった今でも“告知”の数は減っておらず、駅・施設・店内とコロナ感染予防を促す告知だらけです。都内某所の関西系大手百貨店経営の食品スーパーに行った折、レジ待ちする私の目に写真の告知が映りました。高所得層で高齢者が多い特徴のあるエリアなのでうるさいお客様がいらっしゃるだろうと告知を見たのですが、スルッと読み過ごせない引っ掛かりを感じました。文章がスムーズではないのです。短文なのに“お買い物”“ご協力願い”を2度も使っています。“咳やくしゃみ時のマナー”とありますがマナーと言わずに具体の行動を示した方が分かりやすい。“お客様同士間隔”ではなく“お客様同士の距離”ではないか。ともかく微妙な文章になっていました。
もう一度見直せばもっと端的にスマートに告知ができるはずです。ちまたにはPOPが溢れかえっているので誰も細かなところは気付きもしませんが、百貨店系食品スーパーで地域ではブランド力ある店だけにこの告知文章が気になりました。
●「ありがとう」を大切に使おう
「ありがとう」のひと言をお客様が自然に口に出せる店との関係はとても日常的な気持ち良さを感じます。例えば、コンビニ等で複数商品を一括りに固めてカウンターに置いてくれるとマイバックに詰めやすくて「ありがとう」。スポーツジムや病院でカードを手渡してくれると受け取りやすくて「ありがとう」。行列を見て新たにレジを開けてもらえると「すみません、ありがとう」。ファミレスでお皿をすぐに下げてもらえて「ありがとう」。お客様が小さな「ありがとう」を毎日たくさんあちこちで口にできる街はレベルの良い小売店や飲食店が多くある平和な街ではないかと思います。
ところが、私は嫌いな「ありがとう」があります。それは自粛を促す「ありがとう」の使われ方です。時々、都市施設や商業店舗に行くとトイレや洗面所やロッカー等で「毎日きれいに使っていただきありがとうございます」という貼り紙を見かけます。この意味は?お礼を言われているのではなく行動や態度を慎みなさいの意味であり、トイレや洗面所をきれいに使いなさいと注意しているのでしょう。なぜ「きれいに使ってください‼」と直球で球を投げないのでしょうか?せっかくの良い言葉の「ありがとう」を自粛的に使うのにはずるさを感じてがっかりしてしまいます。
「ありがとう」はお客様もお店も大切に使いたい言葉です。真逆の「ありがとう」の使い方に嫌悪感を覚えるのは私だけではないはずです。
お店にはそれぞれの地域でのポジションがあり店格があるもの。告知のやり方ひとつにもその店の考え方や品性が表れると思います。貼り紙を出す前にその店にふさわしいか、お客様に伝わるか、の目線で再度チェックして検討する事も店のブランディングにつながると思います。
●気持ちのシンをくった一文。
告知と異なりますが、強いメッセージとなる一文を見ました。ある女性専用フィットネスジムを見学した時のこと、大勢のミドルやシニアの女性メンバーが汗をかいてストレッチや筋トレをしていました。皆さんとても熱心で真剣です。インストラクターから施設について説明を受けていると館内の天井から吊り下がるメッセージが目に留まりました。「迷ったら来る‼」なんとインパクトがあるメッセージでしょうか。館内で汗だくになっている会員はやる気満々で関係のない一文ですが、ジム通いをしている人の出掛け気分をあらわした一文です。今日は疲れた。外出がめんどう。明日行こう。ダメダメさぼったら…などジムに行く前の心の葛藤は誰もが日々経験している事です。きっと熱心に運動する会員の目線の先にこのメッセージが見えると明日の出掛け時の迷いは吹き飛ぶのではないでしょうか。
禁止・注意の告知も皆がルールを守る上で大切な事だと思いますが、こんな奨励のメッセージも心に響く事だと感じました。
(記:島村 美由紀/販売士 第50号(令和5年9月10日発行)女性視点の店づくり㉟掲載掲載)