不動産フォーラム21
クラフトビールは地元推しに支えられる?!-世界で評価されるジャパンブルワリーの時代-
●すべてが地元産のクラフトビール
延岡市内から車で20分。宮崎県と大分県にまたがる祖母傾国定公園の山道を左折すると茶色の建物が見えてきます。ここが「宮崎ひでじビール」の醸造所で、最近話題になっているクラフトビールをつくる工場です。
工場は静かで入り口にインターフォンで呼び出しをの表示があり無人です。1階のロビー&売店で待っていると若い女性(Aさん)が外から登場し工場見学をさせてくれました。見学といっても2階の窓からガラス越しに大中小約20のタンクが3~4部屋に分かれて並ぶ様子だけなので、動きはありません。そこでAさんにビールづくりの工程やブレンドの違いなど興味がわくままに質問をしてみると、とても丁寧にわかりやすく教えてくれ楽しい知識の会話となりました。ビールに詳しいAさんはきっとビールづくりの次の担い手なのでしょう。
ひでじビールは約27年前、地元の石油販売会社の一事業としてスタートしましたが事業打切りになるところを、従業員が買収し改善を重ねながら知名度を上げた人気のブルワリーです。特徴的なのは行縢山の湧き水や県内栽培の麦芽やホップを使い100%地元産製造にこだわっている点です。工場の外には行縢山から流れ出る滝を肉眼で見ることができ、“全てが地元産”という文脈が穏やかな気候と環境の中で“なるほど”というリアリティに結び付いてきます。工場見学のシメはワールド・ビア・アワード2017で世界最高賞をとった「栗黒」という県産和栗を副材料にした濃厚な黒ビールを飲み、その独特の味にまたもやAさんとビール談議に花が咲きました。
●クラフトビールがウケる理由
近年クラフトビールの人気が高まっています。クラフトビールとは、小規模で独立した醸造所が製造するユニークで味わい深い個性的なビールのことで全国に約660ヶ所の醸造所があります。
クラフトビールが誕生したのは1994年に酒税法が改正され、ビール製造免許に必要な最低製造量が年間2,000klから60klに引き下げられ、小規模醸造所によるビールづくりが始まり第1次ブームとなりました。これは地ビールと呼ばれ質を追求したものが少なくブームは終焉。2000年代後半にブーム生き残りの生産者が国外等で専門的な研鑚を積んで質の高いビールをつくる実力派醸造所が複数誕生。この頃からクラフトビールという呼び方が定着し現在は第3次クラフトビールの時代を迎え、宮崎ひでじビールのような個性派ブルワリー(ビール醸造所)が全国で活躍しています。
ワインも地方の小規模ワイナリーが話題となりコーヒーも個人経営のロースタリー(焙煎工房)が注目されれる今、ビールも大量生産、大量消費ではなく、個性・手作り・職人技が尊ばれ割高でも多様な味わいを求める消費者ニーズに応えられるモノづくりが評価される時代になっています。
●グローカルの発想
コロナ禍の3年間はクラフトビール生産者にも影響はありましたがクラフトビールは地域に根付いたビールづくりが基礎となっているため、コロナで家飲みが増え地元のスーパー、コンビミニ、酒店のクラフトビール取扱いと販売量が増えて営業拡大になり、家飲みブームはSNSによって美味しいビールの情報拡散にもつながり、ECによる売上増になる結果をもたらしました。
小規模なブルワリーの多くは醸造所に自営のパブやレストランを併設したり近隣に店舗を構えて製造するビールを提供し、地域の飲食店への卸し等を基本として物流コストを軽減する方策をとっています。それが今どきの消費者にとっては地元の生産品を推す「地元推し」になってここでしか飲めない希少性に結び付きローカルへのこだわりでコアなファンを集める特長が生まれています。中には、ひでじビールのように世界で評価されグローバルとなるメーカーもいます。クラフトビールの流れを見ると、地域の風土や文化との共生が新たな市場形成になるチャンスを知ることができます。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2023年4月号掲載)