不動産フォーラム21
街からクリスマスツリーが消えた年
クリスマスにお正月と例年の年末年始は街が華やいだ雰囲気になり、まばゆいイルミネーションに豪華なクリスマスツリー、定番のクリスマスや新春を祝う音楽が街に流れ「友人と食事を」「プレゼントをさがしに」「新年会のお誘い」などと気分が盛り上がってくるものです。特にコロナ禍の自粛解除になった今回の年末年始はさぞや街中がお祭り騒ぎになるのでは、と思いきや、意外な現象が起こりました。
●「クリスマスツリー??今年からなしです」
都心の百貨店やファッションビルでは11月下旬から毎年趣向を凝らした大きなクリスマスツリーが広場や館内に飾られ、「私の○○なXマス!」「二人で○○なホワイトナイト」などのキャッチコピーを掲げた広告でショッピングシーズン到来を人々にメッセージしてきました。
渋谷の街でも「今年はどんなツリーなのだろう」とA店やB店の店頭を気にしていましたが、12月になってもツリーは設置されません。A店、B店に問い合わせると「今年からツリーは飾りません」という答えが返ってきました。ツリーの点灯式をやったアーティストのライブをするなどクリスマスツリーは恒例の大型イベントだったので、急にあっさりと“なし”に驚きました。
他の街の商業施設を調べてみると銀座でも新宿でも大人丈サイズのツリーを各階に飾る程度、クリスマスプロモーションもやっていない、年末の特別な催しは一切なしなどと、有名百貨店やファッションビルで定番の大掛かり年末イベントへの考え方に大きな変化が見られました。
●ゴージャスではなくサスティナブルへ
その中で100%再生が可能な素材を使ったクリスマスツリーを設置した商業施設が表参道にあり注目を集めました。10mの高さのツリーはペットボトルを素材としたもので、透明な雪の結晶が重なりあったような真っ白なツリーはとてもきれいで印象的です。20分に一度、このツリーに照明が当たり、オリジナル曲が流されクールで幻想的なショーが展開され、人々が集まり静かにショーを楽しんでいました。このツリーは展示後に回収し裁断され分子レベルに分解して素材原料として再利用するようです。恒例のクリスマスツリーを飾るけれども「社会に、生活に、自分たちの環境に対する考え方をメッセージする」というこの施設の発信方法に共鳴した人々は多いのではないのでしょうか。
六本木の商業施設では華やかなクリスマスツリーを例年通り飾りましたが、廃棄する剪定木を活用したサスティナブルなツリーで骨組みもリサイクル可能なステンレス素材に切り替えた工夫を行いました。八重洲の商業施設では「青森ねぶた」の職人の手作りサンタで日本の伝統芸術をいかしたアーティスティックな演出を行ったことも話題になりました。
年末年始はサイフの紐がゆるむシーズン。商業者はこの年に一度の消費チャンスをとらえようと手を変え品を変えて消費者の気分を盛り上げるのがいままでは当たり前でした。しかしコロナ禍の数年間を経て消費者の価値観が大きく変わっています。さらに物価高で値上げラッシュが続き家計が圧迫される1年を過ごしてきました。また、こだわりの強い倹約家のZ世代が消費の主役になっています。このような背景から人々の生活感覚が変わり“特別な高揚感”より“いつもの充実感”や“社会への優しさ”におもむきをおく私たちの暮らしがつくられつつあります。消費者心理を上手に読み解き、次のステージを計画する商業者は恒例化した年末年始の取り組みをあらため、ネクストステージの消費シーンを新たに計画しているのでしょう。
さて、2024年はどんな面白い消費シーンが街に登場するのか、楽しみです。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2024年1月号掲載)