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2013.03.18

不動産フォーラム21

「2013年 クルーズ元年 『船旅は楽旅』」

 

 とあるきっかけで1月中旬に国内クルーズの旅に出ました。乗り込んだのは客船“にっぽん丸”。神戸港から宮崎(油津港)~広島(広島港)をめぐって神戸に戻る4日間の船旅でした。

 これが想像以上に面白く、新しいレジャーの切り口になりそうな人々の様子が観察できたのでご報告をしたいと思います。

 

ボンボヤージュ・セレモニー 銅鑼の音

 お正月明けの静かな神戸港。穏やかな晴天の空に白の船体がまぶしいにっぽん丸が停泊していました。客船のイメージは持っていたものの改めて700人乗りの大型客船を目の前にしてみると、その大きさに目をみはるものがあります。

 ラテン音楽とクルーの出迎えで乗船すると、船内は予想以上に広々したパブリックスペースが乗客を迎え入れ、案内に沿ってそれぞれの客室に入りました。私の部屋は船の3階にあるコンフォートテラスと呼ばれるにっぽん丸では6割を占める平均クラスの部屋でした。広さは14㎡でベッドは2台。船室の小さなスペースに若い頃に住んだワンルームマンションを思い出しましたが、客船特有の丸い窓の向こうは青い海でウキウキした気分になります。さすが船の部屋だけあって物入れや冷蔵庫やTVや備品がコンパクトに収納されていますが、クローゼットは3ブースあり大きめ。長旅のワードローブに十分対応できるサイズでハンガーもたくさん備え付けられ、衣装もちのご婦人にも満足な対応です。

 さて、船に乗ってまずは取り組まねばならないことが避難訓練でした。乗客全員がデッキに集合して、乗組員からの緊急時の対応や救命胴衣の着脱・救命艇の番号確認等を行いました。私はなんとなくタイタニック号の映画のシーンを思い出してしまいましたが、中には子供に救命胴衣を着せて記念写真を撮る親子連れもいて、大切な訓練もこれからの船旅への期待で浮かれ調子です。

 そして、いよいよ出港。プロムナードデッキに集まった人々にホットドリンクがサービスされ、銅鑼の音がデッキに響き渡りにっぽん丸の巨大な船体が岸壁から離れていき、私たちは色とりどりの紙テープを岸壁に投げ、別れを惜しもうとしたのですが・・・。客船で4日間だけの旅のためか、岸壁には関係者らしい数名の男性のみで、風にあおられ投げた紙テープは海へ沈み、ちょっとロマンチックとは言いがたい旅の始まりとなってしまいました。

 

Shall We Dance? 大人の夜

 わかってはいたことなのですが船旅で最も驚いたことは、朝・昼・夜と続く食事にアフタヌーンティーやナイトスナックのグルメシリーズ。お腹をすかす暇がなく次から次へグルメタイムがやってきます。4日間で何と2㎏も太ってしまうほど食べる楽しみは充実しています。特に3日目のディナーは、京都たん熊のお料理を主人自らが乗船してふるまう“にっぽん丸特別御献立”の日。これを目当ての食通の方も多かったようです。船での食事はアルコール以外がすべてフリー(無料)なので、とめどなく「あれもこれも」と食べていると大変なことになってしまいます。覚悟はあったのですが、下船後の自分の体重に驚きました。

 さらに、ディナーの後は毎夜プログラムされるマジックショー、ミュージックコンサート、トークショーや映画上映、ミニライブ、カジノゲーム、ソシアルダンスタイム等々、深夜24時まで船の随所で様々なエンタテインメントが催されています。これがなかなか面白く夜の大人の時間をたっぷりと楽しませてくれます。そして最後の目玉は船尾にある大浴場。夜は何も見えませんが、日中は一面の大海原を眺めながらのスパを存分に味わえ、これも船旅の予想もしていないサプライズとなりました。

 

船旅三昧のひとびと

 冒頭に書いた「想像以上に面白く」感じたのは何だったのか?よくよく考えてみると、「何も決めなくても楽しいことが目白押し」だったから快適な旅に感じたのだと思いました。

 私は旅行好きで頻繁に国内外に出かけます。交通手段、宿泊先、観光先、食事etc.・・・。楽しむ旅には決めなければならないことが山のようにあり、情報を集め、予定を立て、アクションを起こし、時間調整をしての繰り返し。レストランに行ってもメニューとの格闘。本当にめんどくさいです。さらに荷物を持ち、ホテルからホテルへの移動は重労働。長旅の後半にはやや無口になっている自分に気付くこのごろです。

 が、しかし、船旅にはその煩わしさが一切なく、乗船したらすべてのエンタテインメントが用意されている(食事のメニューも決まっています。同一時間にいくつかのエンタテインメントが船内で展開されているので、まるで学生時代の文化祭のように次から次へ部屋を覗いてまわり、面白そうなところに留まればいいのです)ので、そのプログラムに乗っかればBESTな旅が約束されているわけです。本当に“楽旅”です。ビギナーの私はキャリーケースを東京から運びましたが、上級者は自宅から宅配便の往復で荷物を送り込み、自身は身軽なバッグひとつ。当然、泊まる部屋も変わらず、様々な寄港地で観光を楽しめるのですから、“ストレスフリー”な贅沢旅です。

 こんな私の“船旅価値発見”を裏付けるかのようににっぽん丸にはマーケティング視点で興味深いお客が乗っていました。

 80代半ば~後半のご高齢の姉妹がいらっしゃり、やや足元がおぼつかないためかダイニングでは毎回入り口に近い決まった席で食事をとられていました。話をうかがうと、船旅は年寄りにとって安全、お客様523人に対し乗組員が230人いるという万全な体制の船上では、乗組員がいつも介護をしてくれ心配をしてくれ優遇をしてくれて快適とのことでした。前回の船旅はと聞いたら「昨年11月だったかしら」との答え。1ヵ月おきに船で遊ぶおばあちゃん姉妹でした。ちなみにこのお二人、深夜のカジノではシャキッと立ってルーレットで遊んでいる姿を目撃。船旅三昧シスターズです。

 にっぽん丸の6階は一番豪華なスイートルームが集まっているラグジュアリーフロアで、旅費も平均クラスの3~4倍するそうですが、いつもこのフロアから70代の紳士が一人で颯爽と登場されます。そして驚くことにその紳士は毎回異なるキャプテンファッションでバシッと決めています。どうも船がお好きでご自分が船長になった気分をファッションから楽しんでおられるようです。乗組員とも親しく会話を交わしておられ、常連さんの様子でした。

 エンタテインメントの核としてドルフィンホールという2階席もある中型劇場がにっぽん丸にはあり、ここで毎夜趣向を凝らしたショーが上演されます。私はマジックショーを楽しみましたが、このメインステージが終わると、ドルフィンホールはダンスホールに早変わり。毎夜、何組ものソシアルダンスを楽しむカップルがタキシードとドレスで踊り明かしていました。見ていると、お好きなカップルは何着もドレスを船に持ち込み、ダンスファッションも楽しんでいるようです。お話をきくと、生バンドで上等なホールで踊る経験は街中ではできないので、船旅はこれが目的で来ているダンス愛好家も大勢おられるそうです。深夜24時頃大浴場にいると、まるで部活が終わった後のようにダンス好きのご婦人たちが汗だくでお風呂にやって来て「あー楽しかった!!」と湯船にザブ~ンと入ってきました。この方々には船旅が実はダンス三昧なんですね。

 こんな個性的なお客さんのほかにも、60代夫婦が孫2人を連れての家族交流旅、銀婚式や金婚式のご夫婦旅、車椅子に乗った家族との旅、お誕生日の記念旅、等、いろいろな方々が船のエンタテインメントを楽しんでいました。お正月明けの平日4日間であったので、やや年齢の高い客層でしたが、船旅の価値をそれぞれに満喫している様子をうかがえました。

 

船旅人口、日本は20万人、米国は400万人

 昨年12月、ニューヨークの出張先でテレビを見ていると、「ディズニーライン」「ソウルトレインライン」というテーマ型クルーズのCMが流れています。一昨年の同じ時期にはまず気付かなかったCMだったので、日本の船会社の専門家に尋ねたところ、アメリカではクルーズが特別層から一般層に大衆化をして拡大傾向にあり、アメリカ人口の約1.3%にあたる400万人がクルーズのリピーターになっているそうです。が、日本ではクルーズリピーターが20万人程度(0.15%)。まだまだ一部の人たちだけにしか経験されていないレジャーなのだそうです。しかし最近は、日本でもインターネットで海外のクルーズを知ることができ、申し込むことも容易になりましたので、ネット検索をすると前述のディズニーライン等に日本から乗船している人たちが結構いることがわかります。

 さらに、HISは2013年を“クルーズ元年”と位置付け、海外客船をチャーターした海外・国内の安いクルーズの発売を開始、また海外の客船が日本発着のクルーズを積極的に展開する等、新しい旅のスタイルが注目を集めそうな動きが具体化しつつあります。

 従来、シニア層に対する高級レジャーがイメージされていた船旅ですが、若年層や家族層をターゲットとした米国のようなクルーズの大衆化が日本でこれから始まるかもしれません。

 いずれにしろ、高齢化する日本の中ではその遊び方が大いに可能性のある分野であることを体験した新春でした。私もリピーターになりそうです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2013年3月号掲載)