繊研新聞
ゴルフブームで変化する売場 -女性がゴルフ文化を進化させた-
2022年スポーツアパレル国内市場は約5,842億円に売上を伸ばし、中でもゴルフウェアは前年比16.4%増の約1,100億円売上(矢野経済研究所)と好調だ。女性人気がトリガーとなったといわれるゴルフブームは、店舗や売り場にどのような変化をもたらしたのだろう。
ゴルフブームでアパレル業界では新規参入が後を絶たない。大手セレクト・紳士カジュアル・ヤングレディス・ストリート系・服飾雑貨系等のメーカーが数年前から参入し、その数は100以上になるという。新規ブランドはファッショナブルな個性的デザインで差別化し、有名ブランドのゴルフラインも生まれ、女性の選択肢が増えた。機能性とファッション性が融合し、素材開発はもちろん、売場や接客にも女性客が引き金となる変化が生まれている。
機能より見栄え先行
銀座のブランドショップでセットアップを相談すると「どのゴルフ場に行くのか?」と聞かれ、行き先を告げるとタブレットでゴルフ場HPからドレスコードをチェックし「これはOK」「これは派手でNG」とゴルフ場の格に合うコーディネートを紹介してくれた。名門とカジュアルゴルフ場のドレスコードを案内から、スタッフの手馴れた対応はさすがだと感心した。
最近は襟なしシャツでプレイするプロゴルファーをいる。店のスタッフに襟なしが通用するのかを質問すると、半数はOK、半数は「事前にゴルフ場へ問い合わせする」の答え。襟なしがOKは不適当な客への情報提供で勉強不足で、ウリが先行してしまっている。若年層が増え服装規定も緩くなるゴルフ場が増えたが、販売員は、まず基礎知識を身に付けてほしい。
コロナ禍前はゴルフ人口が先細りで、男性中心の市場のためデザインより機能を訴求する商品が多かった。収縮性、ポケット位置、速乾性、UVカット、保温性が接客のポイント。今は機能性を語る場面が少なくなり「カワイイ」「目立つ」「カブらない」が多発される。
あるブランドで男性スタッフの接客を受けた時「パンツのシルエットがキレイ‼」を連呼されたが、どうキレイなのかの具体性がない。話題を変えレインウェアの有無を聞くと「最近レディスも発売になり耐水性2万ミリ」と、笑顔で上下10万円の商品を紹介された。ワークマンも2万ミリで4,900円だと伝えると無言となり、再びデザイントークが始まった。雨天は着替えにくさや雨の染み込みや蒸れで苦労が多く、10万円を乗り越える機能トークの説得力が欲しいところだ。
知人女性が新宿の大型スポーツ店で新作のスカートを勧められ、脚の日焼け対策を尋ねると「夏にレギンスは暑いので脚にたっぷり日焼け止めクリームを塗る事」と言われ、買う気が失せたそうだ。
定番の白ポロシャツの真っ白キープの洗濯方法を聞くと、百貨店のスタッフは「知りません。ごめんなさい。」。中には「漂白剤に」と言われ「ブランドロゴが消えてしまう」で笑い合う。六本木の大型ゴルフ店で女性スタッフに質問をすると「白ポロシャツは消耗品」と言い切られ驚いた。可愛い、カッコいい、個性的、ラグジュアリーとすっかりファッショナブルになった市場だが、長時間身に着けフィールドを動き回る全天候型だけに、機能とファッションの融合は接客時に重要なお勧めポイントであるべきだろう。
悩みは組み合せ
20歳前後の女子プロの活躍とファッションが女性の感性に響いた。店では男性より女性客を多く見かけ、子連れ若ママや20~30代ワーカーなど若年層女性が日中から来店している。客が増えたためか、コロナ前よりスタッフの声掛けが少ない。「何をお探しですか?」の定番アプローチはほぼなし。客から「○○を見たい」「○○を探している」のアクションから接客が始まる。ファッション消費体験が豊かで、欲しい商品のイメージを持つ女性客が増え、店内もブランド別、アイテム別に整理されセルフでも見やすい売場づくりに進化している。
スタッフに聞くと「テレビで見た○○プロ、インスタでアップされた○○さんと同じウェアを」「いつもは地味な通勤着だからゴルフは派手に」というリクエストがあるそうだ。前述の六本木のスタッフ曰く「ゴルフは本人が楽しむレジャー。下手を気にする人はいない」。全身コーデ購入の初心者も「悩むのは組み合せで、費用ではない。六本木だから」という。
客は試着姿をスマホで撮って友人やパートナーとラインで決めたり、「ネットで買うのでサイズ確認の試着を」という客も多いそうだ。「これが着たい」「あの組み合せを」とイメージを持つ女性客にわかりやすい売場づくりが重視される。
街着として提案
よくゴルフ売場で聞かされる一言だ。「ウソでしょ!」と感じる客は多いのではないか。大きなロゴのポロシャツ、鮮やかカラーパンツ。これを着て街に出たら帰宅途中のゴルフ客そのものである。
アウトドアウェアを街着として楽しむ人は多い。防寒、防水、防風とデザインや素材が機能的で日常生活に適し便利だ。しかし、ゴルフウェアはそこまで高機能ではなく、日常生活にはロゴやデザインが目立ちすぎ“ザ・ゴルフ”になってしまう。数年前からセールストークになった“街着でもOK”はファッション性が強調されてきたゴルフウェアでは説得力が薄い。販売員の、その1枚を買わせたい気持ち先行が無理なセリフになってしまいがち。プロの販売員であれば、具体的に“街着としてのコーディネート提案”ができれば、見事な接客となるはず。今後に期待したい。
ゴルフ場利用者数は2021年1,025万人、2022年1,053万人と増え、市場活性化を裏付ける。だが、コロナ禍が落ち着いた今春以降、国内外旅行や他のレジャーへの関心が再燃さ、ゴルフ市場が好調を維持できるかが課題になる。女性が牽引したブームはゴルフカルチャーを大きく変え“ゴルフを見せるレジャー、楽しむスポーツ”にアップデートした。今後はブームで増えた新規や復活のファンの買い足し・買い直しを促進する方策が必要になる。世代交代のチャンスを可能な限り生かすために売場・接客は改善余地が大いにあるはずだ。
(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2023年(令和5年)6月20日(火)掲載)