販売士
観光という新しい商業ステージ ー ウィズコロナ時代の 新分野に注目 ー
●観光地に定番店と進化したショップあり
行動制限解除で外出機運が高まっています。特に旅行支援や県民割引等の政策が功を奏し観光地は日本人に加えインバウンドの来訪も回復し、にぎわいをみせています。
私は関東圏の観光地を巡り商業の様子をチェックしました。買い回り品や最寄り品で構成される一般商業とレジャーやレクレーションにまつわる観光商業とは品揃え・価格・見せ方・接客など店づくりが異なる分野です。
観光商業というとどんな店が頭に浮かんできますか?観光地に○○商店、○○物産と看板がかかる“土産屋”で煎餅や饅頭の箱菓子が高く積み上げられ漬物・酒類・雑貨が所狭しと陳列されたあの“お土産屋”を思い浮かべるのではないでしょうか。
商業が進化した今、このスタイルは少数派になったかと思いきや今でも変わらず観光地の定番で各地に見かけます。はやりのご当地カップ麺やご当地キャラクター雑貨が追加され、外国人や若年層や時間潰しのお客様には「とりあえず見る?」という土産屋のコンビニ的存在になっている様子がうかがえました。
進化型商業として面白かったのはスイーツショップやベーカリーがロードサイド独立型で成立していた事です。スイーツショップでは生ケーキやプリン等が人気で行列ができています。またベーカリーは街中と変わらない食パンやペストリー等の豊富な品揃えです。
観光地で生ケーキや食パンを誰が買うのか?の答えは“SNS”にあります。ショップの外テラスでは買ったばかりのシュークリームやプリンをパクリと食べコメントする友人を動画で撮るタイ人たち。若い女子グループではインスタ映えするアングルを楽しそうに相談しています。日常のグルメ体験と同様、SNS拡散による旅先のリアルな交流体験を若者が楽しんでいます。
こんな動きを見るとスイーツやベーカリー以外にもこの類の商業の可能性は大いにありそうです。
●観光地でもテーマになる“ライフスタイル”
避暑地で有名な軽井沢は年間800万人超の観光客が訪れますが、ここ軽井沢の商業は他では真似のできない“ライフスタイル提案型の観光商業”が特徴的です。
明治に来日した外国人が涼を求め避暑地開発が始まりました。大正期に日本の富裕層にも避暑が広まり外国人の避暑スタイルが憧れとなり、軽井沢や六甲山・箱根という高原が注目され人気となり、テニス・ゴルフ等スポーツやダンスパーティー・ホームパーティー等上流階級のハイカラなリゾートライフが展開されました。
こんな歴史から成り立つ避暑地商業は食・衣料品・インテリア・生活雑貨・文化雑貨の幅広い業種業態構成で洋風が基本となるので、現代の生活者の価値観とマッチします。軽井沢の観光商業ではブーランジェリー(パン屋)やジャム・コンフィチュール専門店・ロースタリー・家具屋・キッチン雑貨店・スニーカーショップ・インテリア雑貨店が中軽井沢や旧軽井沢商店街に集積して別荘族の避暑ライフを支えつつ、観光客の憧れ消費ステージになっています。
勿論軽井沢や六甲山・箱根というリッチなイメージの地域である事がポイントで、ライフスタイルに関心のある女性客の興味を引く魅力コンテンツに進化しています。
●蒲鉾オンリーの世界観
創業160年のある蒲鉾メーカーの大型店は、蒲鉾という単品をバラエティー豊かに見せる挑戦で観光客を集めています。
蒲鉾はお正月しか注目されない食品ですが、この店では海老・豆・野菜・カニ等を練り込みデコレーションしたオードブル蒲鉾、魚や動物の形にしたかわり蒲鉾、1本数千円もする職人手作り超高級蒲鉾など蒲鉾商品が多種揃えられています。
あわせて“包む”をテーマにした贈答品としての風呂敷各種や、個性的イラストBOXに入れ、プチギフト(500円)として贈る蒲鉾提案。さらに蒲鉾用ドレッシングや蒲鉾マッチするお酒各種の提案。そして、お箸や小皿等のテーブルウェアやポストカード、メッセージカードの雑貨提案まで蒲鉾の世界がバラエティーに富んでプレゼンテーションされています。
最も面白かったのは“かまぼこバー”なる6人掛けのバーカウンターで、店内で販売されている各種蒲鉾やお酒がセットで500円で試食試飲できる提案です。「これどんな味?」という素朴な疑問や「ちょっとつまみたい!」という欲求を満たしてくれる店の気の利いた提案はお見事でした。
蒲鉾という限定的なアイテムをここまで拡大し美味しく楽しい世界観を演出しているのは、食べる側のお客目線を理解している店のセンスを感じさせてくれるショップでした。
コロナと共生する時代にレジャーやレクリエーションの需要が高まる中、観光という新分野に商機ありと感じます。観光の語源は「その土地の光を見る」のだそうです。
(記:島村 美由紀/販売士 第48号(令和5年3月10日発行)女性視点の店づくり㉝掲載掲載)