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2010.04.23

不動産フォーラム21

「中国から千客万来」

 

本格化する中国人の訪日ブーム

 仕事で札幌へ通い続けて14年になりますが、この3~4年で特に中国人観光客の姿が急激に増えてきました。今年の春節といわれる2月中旬の旧正月のころは、真新しいスノーブーツを履いた中国人観光客を街角やホテルロビーでたくさん見かけました。ホテルスタッフに話を聞くと、中国で6,000万人が見て大ヒットした中国映画『非誠勿擾(邦題:狙った恋の落とし方。)』という映画のロケ地が北海道東で、中国人の北海道ブームに火がついたのだそうです。この映画は米国留学経験のある主人公が投資で大金持ちになり、道東の海岸や田園風景をバックに結婚相手を探すラブコメディで、その景色を体験しようと大勢の中国人が北海道を訪れるようになりました。まるで中国版冬ソナ現象のようですが、1998年には2,000人にも満たなかった北海道観光中国人が2008年には47,400人にもなったほどですから、映画の影響力には驚くべきものがあります。

 

 2009年7月に日本政府は中国人向け観光ビザを解禁しました。それまでは搭乗員が同行する団体ツアーに限られていた日本への旅行が年収25万元(約350万円)以上の富裕層を対象に個人旅行が解禁されたことで、中国人観光客の訪日人数が100万人を突破する時代に突入しました。2009年の訪日中国人観光客は、前年比0.6%増の101万人となり、年間約850万人の外国人旅行者のうち約12%を中国人が占めるようになりました。今後も富裕層だけではなく、一般大衆層にもビザ解禁が検討されているらしいので、中国人は日本にとって有望なお客さまとなりつつあります。

 

不景気の救世主、中国人観光客

 先日のこと、銀座3丁目の「シャネル」をのぞいたら、金曜日の夕方とあってか十数名の人が店内にいました。「あら、不景気で銀座のラグジュアリーブティックは閑古鳥と聞いていたけれど意外とお客様がいるのね!?」と思っていると日本人はほんの一部のみ。大半が中国や韓国からのお客様でした。バギーに子供を乗せた30代ミセスや身軽なカジュアルファッションの50代夫婦。だれもが買物慣れした上客の振る舞いでシャネルの春コレクションの品定めを楽しんでいます。また後日、新宿伊勢丹に行くとここでも大勢の中国人に出会いました。特にインポートブランドゾーンはほとんどが中国からのお客様で、見るからに富裕層であるいでたち。どういうわけか靴やバッグを複数点のまとめ買いをしていました。不景気の真っ只中でラグジュアリーショップや百貨店や日本を代表する繁華街の銀座や新宿は、アジアからのお客様でにぎわいを維持している様子が見て取れます。

 

 あるデータによると、外国人観光客の日本における物品購入額の各国平均が4.65万円のところ中国人は7.87万円と、各国平均の2倍となっています。中国人が海外旅行時の支払いで使う「銀聯カード」の国内決済総額は年々増加し2009年に200億円を超えたと聞いていますので、中国の日本買物旅行客は不景気時の救世主のごとくまぶしく映ります。特に総売上7兆円割れを起こし厳しい状況が続く百貨店においては中国人客のまぶしさは一段と強く、一昨年9月のリーマン・ショック以降、前年同月割れが続いていた外国人売上が昨年11月以来前年を大きく上回り、好景気に沸く中国をはじめとしたアジアからの観光客が急増し、百貨店にとっては久々の明るい話題になっています。知人の百貨店マンも「ピリピリムードの館内だけど、アジアのお客様を見かけるとほっぺたが緩むよ」と言っていました。

 

中国人は「メイドインジャパン」に信頼を置く

 では、中国人は日本で何を買っているのでしょうか?中国のブログサイトをのぞいてみると、1位:ルイヴィトンとグッチ、2位:オメガ、3位:バーバリー、4位:雪肌精(コーセーのスキンケア商品)、5位:ファンケル化粧品、6位:DHCサプリメント、7位:ビューティーン(ヘアカラー液)、8位:ストッキング、とあります。

 

 1位・2位のブランド品等は当然アジア圏でも店舗があり販売をしていますが、銀座や青山にはアジア最大規模の大型店があり、品揃えが最も豊富で円高効果のため日本では安価に買えると人気だそうです。3位のバーバリーにはおもしろい話があり、日本ではバーバリーのライセンスを持っているアパレルメーカーが独自のライセンスブランドをつくっていて、これが英国バーバリーよりもアジア人には人気があります。私も百貨店で現場を見たことがありますが、中国人客の中には個人客ではなく商売人もいてサイズのまとめの仕入れをしていくほどメーカー側も驚くヒット商品になっています。

 

 4位以下はおなじみの日本商品ですが、中国人に人気の家電商品(カメラ、炊飯器、電気シェーバー等)も同様のことで「メイドインジャパン」に絶大なる信頼を置いている中国人の姿がそこにあります。秋葉原の家電ショップの店頭に行くとそれがよくわかるのですが、「日本製」と赤文字で書かれたPOPが目立ち、「日本製ですか?」の質問が飛び交っています。理由は簡単、日本製品には「安全・良質・最新機能」の3拍子そろった評価がなされているからです。また、化粧品等では日本製の中でも海外向け商品ではなく、日本のみで販売されている商品が飛ぶように売れ「本国で自慢になるから」という見栄消費ごころも強いとか・・・。

 

 近頃は衣料品や食品や家電において海外商品が日本の市場を脅かす存在になっていますが、外国人に「メイドインジャパン」が評価されるのは、うれしい限りです。

 

中国人客の心をつかめ!

 実は中国のお客様を自店に誘致する方策は、日本の店頭からではなく中国を出発する前から始まっています。

 例えば、家電量販店のビックカメラは昨年から、上海や北京市内の地下鉄、空港、コンビニエンスストアで広告を掲載し、その広告から取得したクーポン券を池袋や新宿、有楽町の店舗に持参すると13%OFFとなる販促を行っています。また、ドラッグストア大手のマツモトキヨシは中国の旅行代理店や空港にフリーペーパーを置き、人気コスメの情報提供や自店の所在地をわかりやすく説明し、積極的に利用拡大を図っています。

 

 さらに驚きの方策は、著名なアジア圏の外国ブロガーを日本に招き1週間滞在させて、その体験談を各自のブログに載せてもらい、旅行の事前情報をネット検索する人々に好印象を与えるというネット時代ならではの「情報源」作戦を始めている新潟県のような観光誘致も始まっています。

 

 大手や行政ばかりでなく、若者のスポットとなっているファッションビルやファッションエリアでも消費が活発な中国人観光客の取り込みを忘れてはいません。ファッションビルの渋谷パルコでは2月の旧正月期間中に、館内が中国語のフロアガイド、ポスターや館内サイン等、中国語でいっぱいになっていました。さらに期間中にパスポートを提示したお客様にかわいらしいオリジナルのトートバッグが配布され、日本人客がうらやましがっていました。

 

 若者ファッションのメッカである原宿では、地元商店街が昨年より旧正月期間中に原宿ツアーガイドを実施して、ファッションメッカの旬情報を若年層観光客に提供しています。実は、著名なラグジュアリーブランドのみならずアジア圏の中では、日本人デザイナーのファッションや中小アパレルメーカーがつくり出す日本服の価値が年々認められてきており、近頃は銀座・新宿に匹敵するほど、青山・代官山・渋谷・原宿に若年のアジア観光客(主に台湾・韓国)が訪れている流れも、見逃せない新たな動きだと思います。

 

 今のところ、中国人を代表とするアジア観光客は、東京の中心部やTV・映画のブームに乗った一部の地方都市に集中していますが、スキーが楽しめる蔵王や長野、温泉めぐりのできる東北エリアや首都圏から近い箱根あたりでも、アジア圏観光客数は増加傾向にあるそうです。中には「日本の文化に触れたい」「歴史的な日本を知りたい」といったコト体験を望む観光客の声もすでに上がり、日航や京都へ目を向ける観光客もいるそうです。以前の日本人海外観光がそうであったように、まずモノ消費から始まって、やがて成熟をはたしてコト消費に行き着く、というプロセスが、中国のお客様やアジア全体のお客様の成長過程ではないでしょうか。

 

 不況下の日本において、まさに中国・台湾・韓国等のアジアからの来日外国人は「新客創造」の好機。思いっきり日本を広く深く楽しんでいただき、できれば「次も日本へ」と思ってもらえるおもてなしを実現したいものです。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2010年4月号掲載)