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2009.10.07

不動産フォーラム21

「 高齢社会への新ニーズ 」

 

 「高齢化社会」という言葉を聞かぬ日はないほど日本は逆三角形の人口ピラミッド状況を日々更新しています。2008年10月1日現在、日本の65歳以上の高齢者人口は2,822万人と過去最高となり、総人口1億2,769万人に占める割合が22.1%になったと、今年5月に発表された「高齢社会白書」に書かれていました。日本人の5人に1人が高齢者という現実で、人口の多い団塊世代が65歳以上になると高齢者人口は3,000万人を超える時代に突入することになるそうです。

 

 身内の話で恐縮ですが、母が高齢になったこの数年、「骨休めにちょっと温泉へ」という気軽な外出にも変化が出てきました。まず下半身が弱くなったので和風旅館でもベッドの部屋でないと寝起きがしづらい、座敷に座れない、お風呂の照度や段差が気になる・・・。普段は元気で一人暮らしをしている母ですが、足元や視力が弱ってきたため宿選びに気遣いが必要になってきました。

 

 自分が若くて元気だと「高齢化社会」を実感することもなく日々を過ごしていますが、近親者の高齢化によって初めて街の機能も変わってきたと気付いたいくつかのお話をしてみたいと思います。

 

“福祉浴室”という温泉のニーズ

 前述の宿探しでネットを見ていると、近頃は“ハンディキャップルーム”というワードが出てくるようになりました。車椅子対応が完備しているお宿という意味で、全館バリアフリー対応はもちろんのこと、お部屋内の車椅子移動やトイレ・部屋内風呂の手すりや器具(蛇口等)の工夫、お宿によっては起き上がりを補助する電動ベッドが設備されたお部屋もあるようです。高齢者のみならずハンディキャッパーの人々にとっても外出が便利になった例ですね。

 

 さて、親の介護をしている友人から、興味深い話を聞きました。半身にマヒがあるお母さんがテレビの旅番組を見ると、いつも「温泉に入りたいけど無理だねー」と言っていたそうです。そこで友人はネットで半身マヒでも入浴できて、なおかつ人目を気にせずお母さんがゆっくり温泉気分を楽しめるような“ハンディキャッパーにとって気の利いた温泉”はないものか、と探したところ、長野市に「湯~ぱれあ」という日帰り温泉の中に一室だけ“福祉浴室”を発見!60歳以上250円の入浴料と、90分1,000円の貸し切り料金せお母さんに温泉孝行ができた、と喜んでいました。浴室内には手すりやリフトが設備され、軽度マヒの人であれば十分温泉を楽しめる浴室になっているそうです。

 

 こんな友人の話を聞いて“福祉浴室”に関心を持ってネット検索してみると、数こそ多くはありませんが、行政系施設の中の福祉浴室や湯~ぱれあのような日帰り温泉内にある福祉浴室が出てきました。ただし(友人も言っていましたが)、どこのお湯も設備対応でいっぱいいっぱいなのか、温泉地にありながら風景を楽しめるとか温泉らしい浴室のしつらえがあるといった類のものではないところが残念。でもでも、レジャーをあきらめかけていた高齢者やハンディキャッパーの人たちが温泉に出かけて豊かな時間を過ごせる“気の利いた社会の対応”が生まれ始めた事実に、ちょっと感動しました。“福祉浴室温泉”がもっと増えてほしいですね。

 

街中のカジュアルなリハビリセンター

 私の専門である商業施設開発においても、小さな動きではありますが高齢化社会到来の興味ある出来事が起こっています。郊外ショッピングセンターの中に「リハビリデイサービス」という業態が入店を始めました。これは、軽度の身体機能が低下した人に対し、運動機能向上プログラムを組み立て、理学療法士(PT)が、関節への負担が小さい空圧抵抗のマシンを使ったトレーニングやセラピーマスターと呼ばれるロープを使ったエクササイズを実施することによって身体機能を回復していくリハビリサービスで、要支援・要介護認定者や運動習慣を持たない高齢者に対する、気軽に身体機能を高めていくための新しいサービス業態です。

 

 私の母も両足の膝を人工関節にする手術を受けそれぞれに2ヵ月の入院をしましたが、入院中は病院のお世話になれるので家族は気楽な気分でいたものの、退院後のリハビリ通院は遠距離の病院まで誰がどのようにして連れていくか? 家族の中で大きな課題となりました。今では通常の歩行ができるまでに回復していますが、母としては「不安だからたまに先生に見てもらってリハビリしたい」という気持ちを持っている様子です。こんなお身内の人を皆さんも家族の中に持っておられませんか。また、近頃は高齢者だけではなく若い層でも「脳血管疾患」となり、障害を抱え日常生活に不自由をきたす人の数は増えているそうです。

 

 自宅に近い街の中にある「リハビリセンター」、買物ついでに立ち寄れる「リハビリセンター」、言って見れば従来のフィットネスセンターやスポーツクラブのような立地と存在で気軽に身体機能回復のエクササイズができるスタジオというポジションになります。高齢化社会においては、生まれるべくして生まれた新業態と評価できるのではないでしょうか。

 

 すでにこの「リハビリデイサービス」と呼ばれる施設は、ニーズの高まりに伴って一般事業者の開所で街中に増加をしてきています。前述したイオン高の原SCやイオン明石SCに出店(それぞれ163㎡、90㎡)している「ポシブル」(17店舗)や東京、横浜を中心に17店舗を出店している「nagomi」等があり、どの施設も稼働率が80~95%ときわめて高く、さらなる新店の開設準備で多忙を極めているそうです。

 

 ところで、片やフィットネスクラブ業界は、2007年度より成長カーブが鈍化し昨秋のリーマンショック以降、苦戦を強いられています。不況下で若年層をターゲットとしているスポーツクラブは、会員の退会、会費の値下げで負のスパイラルとなり、業界全体が閉塞状況にあると言われています。そこで、前述した高齢化社会に目を向ければ、「リハビリデイサービス」等の新分野の成長株であるコンテンツはフィットネスクラブ経営の新機軸として検討テーブルに乗ってくるのでは・・・。と思ったら、すでに前述した「ポシブル」は、今年春に全国47ヶ所でフィットネスクラブとスイミングスクールを運営するザ・ビッグスポーツとFC契約を結び、愛知県東海市に新型のスポーツクラブが誕生したそうです。

 

 時代は変わっています。人々の意識も意欲も変わっています。身体機能が十分でなくなった高齢者やハンディキャップを持った人たちでも、気軽にレジャーを楽しみたい。また、わざわざではなく、気楽に身体の回復を図りたいというニーズは当然の思いではないでしょうか。逆三角形の人口ピラミッドになりつつある時代、まだまだ社会の対応力を発揮する分野の開拓が必要です。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2009年10月号掲載)