不動産フォーラム21
パンケーキの上のバターが小さい!?-深刻な酪農動向-
出張先で時たま行くイタリアンレストランで不愉快な思いをしました。この1年間でパンについてくるバターがどんどん小さくなっていくのです。近頃では「これは何?」というような短いマッチ棒のようなバター片が出てきて目が点になる驚きでした。また、都内の某有名フレンチレストランに得意先を紹介したの時のこと、バゲット(フランスパン)だけが出されたので得意先の方が「バターをください」とギャルソンに頼むと「バターは有料になります。○○バターは○○円、 ××バターは××円ですがよろしいでしょうか?」と言われ恥ずかしい思いをしました。
どうやら私の知らない間にパンのお供であって当たり前の存在だったバターが特別なものになていて、世の中はかなり“深刻なバター不足”におちいっているようです。
先日は知人のパン屋オーナーが「バター不足は本当に重大問題で、パンやお菓子の材料となる バターが手に入りにくくなっている。国内生産のバターは減少の一途でまず手に入らない。国外の輸入バターは入手困難で高値。国内の大手パンメーカーはバターをマーガリンに切り替えたところでが多い。味覚のするどい客は気付き始めている。」と言っていました。その知人のパン屋は年末クリスマスにバター無しでは商売にならないと、国内の酪農家を訪ね歩き必要量を何とか確保して都市を越したと話していましたが、今でもバター確保にはたいへんな努力をしているそうです。
“深刻なバター不足”は、主婦の間でも困った話題になっています。ケーキ教室を主宰するマダムは良質バターが急騰してしまい生徒から徴収する材料費を値上げしたと言っていました。また一部食品スーパーでは一瞬売場からバターが消えたり、一人一個の限定販売になるという混乱があった時期も昨年秋には続いたそうです。
バターが無い!なんて飽食の時代には考えられない事態なのですが、なぜバター不足になったのでしょうか?それは酪農家減少が要因になっているからです。
高齢化で後継者がいない、円安による原料費の高騰で酪農家が減り続けている。酪農家戸数は10年間で35%減少の190,000戸となり生乳生産用も2003年度の840万トンから2013年度は751トンにまで落ち込んでいます。その結果、生乳は取引価格の高い牛乳に優先的に使えわれ、次にヨーグルトやチーズ、最後に取引価格の安いバターになるそうで、生乳生産量が減少すると真っ先に打撃を受けるのがバターなのです。
国内で賄いきれなければ国外から輸入という方法がるのですが、アジア圏で拡大するバターの消費と関税や物流コストで国際価格の約4倍にもなってしまう高額バターは、一般消費者が入手しやすい存在ではないようです。バター不足は一時期の問題ではなく慢性的に続く状況です。
思い出してみるとバター風味のサクサククロワッサンもバターの香りが薄くなっていたかも・・・。ホテルの朝食も多くがバターではなくホイップマーガリンに変わっていたような気がする・・・。そして流行のパンケーキもたっぷりのメイプルシロップに大きなバターの塊ではなく小ぶりのバターになっていたかな・・・。
国内の酪農動向がパンケーキの上の溶けるバターにも変化をもたらす“食のあり方”を考えないといけないお話です。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2015年5月号掲載)