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2015.06.02

不動産フォーラム21

あなたの棺桶リストは何ですか?

 
 
 トライアスリートである友人がおしゃべりの途中で面白い言葉を使いました。毎年10月、ハワイ島で開催されるアイアンマンレースはトライアスロンの最高峰とされ、通常距離の4~5倍をスイム・バイク・ランでこなしていく過酷な耐久レース。ずば抜けた体力の持ち主でないと完走できません。また出場できる人はたったの1,800人。世界各国で実績を残してきた優秀な選手と抽選に当たった超ラッキーな人だけがスタートラインに立てるのだそう。出場者は鉄人の中の鉄人という憧れの存在なのだそうで、「アスリートが必ずBucket Listにのせるレースなんだよ」と友人が話をしてくれました。

 

 “Bucket List”とは何ぞや?皆さんはこの言葉をご存知でしょうか?

 

 “Bucket List”とは直訳すると棺桶リスト=死ぬまでにやりたいことリストのことです。Bucketとはバケツのことで、首つり自殺をする時にバケツの上に立って、まずバケツを蹴らないと死ねないことからくる決まり文句で、死ぬまでまでにやること(バケツをを蹴る)のリストの意味だと言われています。アメリカでは誰でもがBucket Listをつくって持っていると聞いたことがあるので、知人のアメリカ人に聞いてみたら「そうね。アメリカ人はいろいろなリストをつくるのが好きだからネ~」と言っていました。好きなリストづくりの筆頭がBucket Listなのかもしれません。たしか数年前のアメリカ映画でジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが演じる病院で知り合った老人二人がそれぞれ余命数ヶ月を宣言され、このまま病院で死にたくないと病院を出て「やりたいことをすべてやりつくそう」と意気投合。スカイダイビングやエベレスト登山、世界一の美女とのキスもリストアップして冒険の旅を続けるというストーリーでした。その原題がまさに「The Bucket List」であったことを思い出し、映画の老人も激しいけどアスリートもすごいBucket Listをつくるものだと感心しました。

 

 さて、私の先輩で団塊世代のAさんは、退職後に100のBucket Listをつくりました。その中に全国にいる昔のガールフレンドを訪ね歩く、昔からほしかったスポーツカーを買って首都高速を走る、という項目を入れました。元銀行員だったAさんは各地で支店長を務め昭和の高度成長期を過ごした人だけに、転勤先でいくつもの浮名を流していたそうです。「キザなリストだ」と知人仲間には不評のBucket Listだったそうですが、Aさんは数年をかけてガールフレンドと再会。スポーツカーで疾走を実現させ満足をしておられました。仲間内では「さすがAさん」の声も上がり、しばらくたって亡くなられました。100リストをいくつ実現されたのかは聞かずじまいでしたが楽しそうな老後の様子でした。

 

 実は私の父も、退職直後「退職金の半分は自由に使わせろ」と母に宣言。その後、79歳で亡くなるまで、その資産を元に、趣味の盆栽で仲間をつくり旅をし、自叙伝を完成させていったので、父にもBucket Listがあって人生最後の時間を楽しんでいたのかもしれません。

 

 近頃“終活”という言葉がブームになっています。終活とは人生の終わりのための活動の略で、最期を迎えるにあたって行うべきことの総括を意味する言葉です。遺言・葬儀・墓の準備・財産分与・延命治療の有無・身の周りの整理等、さまざまな行為があるようです。団塊世代が後期高齢者になる今後は終活人口も増加の一途になることは当然予測されています。が、終活の前に本気のBucket Listをつくりアクティブに実現していく中高年人口も今後ますます増加していくはずですね。友人たちは最後の燃えるような恋がしたい、もう一度ウェディングドレスを着てみたい、全国をドライブ、すきやばし次郎で寿司をお腹一杯、なんて言っています。私は「気力があるうちにニューヨークで一人暮らし」がBucket Listの1項目めなのです。死ぬまでに実現させたいな。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2015年6月号掲載)