販売士
フツーの人で10歳、ずうずうしい人で15歳。 気の利いた対応とは?
男性には経験のないことかもしれませんが、美容院で受ける接客には、女性が一喜一憂する瞬間があります。
近頃はどの美容院も接客サービスが行き届いていて、肩をもんでくれたり、ハンドマッサージをしてくれたり、ハーブティを出してくれたりと、気持ちの良いものです。
しかし、受付を済ませ、「こちらのお席へどうぞ」と案内されるその席に、お客様が読むであろう雑誌が数冊用意されているのを見ると、「えっ、なんで?」とがっかりすることがあります。それはそこに準備されたファッション誌は、美容院側がお客様の年齢を察した年代別の雑誌が置かれているからです。
美容院スタッフの客年齢の見立ては結構打率が良く、20代には20代雑誌、30代になると30代雑誌が置いてあるもので、ハズレはめったにないものなのですが、正確に女性の気持ちを表現すると、「えっ、どうして!?私は若いつもりでいるのに、やっぱり30代に見えちゃうのかな??」とか、「やっぱり40代の私は40代なんだな」という気分になってしまいます。
わが社のスッタフのY子が30代に突入したある日、「昨日ちょっとショックでしたよ。美容院にいったら30代のファッション誌を持ってこられました。やっぱり私って30代に見えるのかな?もう30代になったのだからしょうがないけど、ちょっと傷つきますよ」と言ってました。後輩で美魔女のように美容好きで自分お手入れ大好きなF美さんも「こんなに気合を入れてお金をかけてアンチエイジングやっているのに、やっぱり40代雑誌なのよね。ガックリ(苦笑)」と言っています。
女性心理、販売現場は理解と対応を
本当にそうなんです。彼女たちの発言は、女性の気持ちを正直に表していて、「やっぱりそう見えるの?」「どこがそう見えるの?」と美容院スタッフの見立てをすごく気にしているのです。
ある心理学の先生が言っていました。「普通の人で10歳、ずうずう人で15歳、自分の年齢より若く自分のことを思っているものだ。」と。Y子にもし20代雑誌が渡されていたら「まだまだ大丈夫」。F美さんに30代雑誌が渡されていたら「大成功!」とほくそ笑んでいたはずでしょう。それが女性心理なのです。
よくある経験です。仕事柄様々なファッション店に出入りし、試着をしています。仕事上のチェックもありますが、半分は本気で買い物をするつもりのお試しです。その服を着てフィッティングルームから出ていくと「お客様、すごくお似合いですよ。サイズもぴったりですね」と、いつもの会話が始まります。「そうね。サイズはジャストだけど、これってちょっと若づくりすぎない?無理しているって感じじゃない?あのおばさん、痛いって思われたくないし」と私が言ってみると、ほどんどのスタッフは一瞬“絶句”状態になり、「そんなことないですよ・・・・・・」と笑ってごまかします。
私が口にだした言葉は、かなり正直な大人の女性の心理で。「少しでも若くありたい。若く見せたい。でも無理をしていると思われたくない。自然にイキイキと若く生きているように思われたい」という大人の女心なのですが、まだまだ対処のやり方を勉強していないのですね、販売の現場は。
こういういつもの私のいじわるな発言に、あるとき店長らしき30代スタッフが「お客様、このデザインは今年のトレンドの○○ラインです。このトレンドをお客様のような大人の女性がいち早く取り入れて着こなされるのはさすがだと思われますし、ボトムの色を抑え目にしたり、アクセサリーでポイントをつけると、大人の女性らしいきこなしでシックになりますよ。例えば・・・・・」と言って、組み合わせ提案までしてくれました。そして、私はその服を彼女の提案どおり上下で購入となった次第です。
年齢の不安に対応する気の利いた接客ですね。
高齢化社会、大人客が主役に
考えてみると、世の中は高齢化社会で、大人が増加の一途です。そして女性も男性も「アンチエイジング」が人生を楽しむための一大テーマでもあります。前述したように「普通の人で10歳、ずうずうしい人で15歳、自分を若くとらえている。」という話は、心理であり、名言であると思います。
もしも美容院で見立てより1ランク若めの雑誌を意図的に準備したら、または事前準備ではなく雑誌リストを作ってお客様に選ばせたら。ファッション店で増えるであろう大人客に対応できるよう、力を入れているアイテムに対して、若年向けスタイリングと>大人向けスタイリングを想定しておくとどうでしょう。いろいろなことが好循環して広がりが生まれるように思えます。
高齢化で大人客が主役になる時代、ちょっと細やかなことまで目配りすると、客単価が上がったり、顧客化が図れたり、良いことが起こりそうですね。
(記:島村 美由紀/販売士 第17号(平成27年6月10日発行)女性視点の店づくり② 掲載)