不動産フォーラム21
あらためて味覚を知ろう!!―味覚週間の始まり―
ちかごろ子供達の給食が米飯になりつつあるようですが、どこかの町で米飯に牛乳は合わないという親の反対が起こり牛乳が取りやめになったと聞きました。このニュースに私は「然り」と思った一人です。これだけ豊かになった時代だからこそ子供には“食のスタイル”を正しく伝えるべきではないかと考えます。2~3年前からでしょうか。スーパーの棚にサラダが真空パックのビニール袋に入って売られるようになりました。カット野菜の種類が日増しに増えています。加工された肉惣菜も焼き魚も真空パックのビニール袋です。「食べ物としてちょっと嫌だな・・・」という違和感をスーパーに行く都度感じる回数が増えていますが、オフィスのランチでは若い社員がビニール袋をやぶってサラダや野菜を食べています。“食のスタイル”を守ることは難しいことですね。
美食の国フランスでは1990年代から子供たちに食文化の乱れを正してきちんと伝える運動として“味覚週間”が10月に開催され、8割以上の国民に認知されるフランスの食育活動の重要な一つになっています。フランスでも当時魚を切身でしか知らない子供や味の濃い加工品やスナック菓子によって味覚障害を起こしている子供が増えるという、今の日本のような現象が社会問題になっていたそうです。
1990年10月15日にパリのトロカデロ広場で、グルメ番組の進行役であるジャン=リュック・プティルノー氏の発案により「味覚の一日」という催しが開かれたそうですが、1992年には1日が「味覚週間」と変わり1,200人の料理人が3万人の子供達に味覚レッスンを行い、年々この活動が拡大。政府や各種企業・団体の協力のもとにフランスの大きなムーヴメントになっています。味覚週間には料理人や食品専門家が学校訪問をして、甘味・酸味・苦味・塩味の基本となる味覚を教えたり食品の味を覚えさせたりする活動が基本となります。テレビで私も見たのですが、子供達に味への関心を持たせるために様々な道具や子供用のコック帽、グルメ免状がつくられており、誰もが楽しくなるような授業が開催されていました。
また、フランスでも有名ガイドブックで最高評価を受けている高級レストランで、割引価格で学生や子供達に食事提供を行い味の再発見や食文化の素晴らしさを体感してもらう活動も“味覚週間”では開催されています。この取組みに参加するレストランは2002年357軒からスタートしたのですがその数は年々増加し、今では400軒以上の全国のレストランが名乗りを上げているそうです。
さらにこの期間には各地で新鮮な地元野菜や果物を提供するマルシェ(市場)が開かれ生産者と消費者の直接会話の場になっていたり、法をアドバイスするような仕組みも組み込まれています。
この活動でさすが“美食の国フランス”だなと感心するのは、単なる味覚の教えだけではなく、“風味”や“食のスタイル”も子供たちに教え体験させること、質のある一皿が出来上がるまでの段階まで伝えていこうとすることまでも“味覚週間”の目的になっていることには感服です。
実は日本でもフランスにならって味覚週間が2014年から本格的にスタートを切っており、今年は2015年10月19日~10月25日に開催されます。シェフやパティシエ、生産者がボランティアで小学校へ行き味覚教室を開き、“BENTOコンクール”では食材を無駄にしないで5味を取り入れた弁当を世界中から募り優秀作を選んだり、全国の参加レストランで5味を基本とする料理が提供される、という大きな催しです。
昨年の様子を見ると小学生に仏人シェフが「まずにおいをかいで」「飲み込まずに口で含んで」と話しかけると子供が目を細めて味わっています。食を大切にすることで「グルマンディーズ(食の楽しみ)が始まります」というシェフの一言は、大人も胸にぐさりとくる一言。日本における味覚週間に期待します。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2015年10月号掲載)