不動産フォーラム21
お一人様マーケットの新潮流
社内の若い女性達とおしゃべりをしていたら焼肉の話になりました。
「焼肉を食べに行きたいけれど誘える友達がいない」とA子。「エッ!?焼肉屋に一人で行けないの?私はいつも一人だよ」とB子。「一人なんて絶対ムリムリ。間が持たないし、人の目線も気になるし」とA子。「だってひたすら肉を焼いて食べればいいじゃない。焼肉は肉との対話だよ。好きな肉をゆっくり味わえる一人の楽しみ方は最高!」というB子との会話でした。
せいぜいファーストフードかカフェでないと一人で入店できない昭和世代の私にとっては、毎回この手の話は謎なのですが、若い彼女達のお一人様可能領域は、拡大の一途をたどっています。“一人カラオケ”“一人居酒屋”“一人ボーリング”“一人ディズニーランド”“一人温泉”そして近頃は“一人結婚式”まであるそうです。
私のまわりの女性を観察していると一人暮らしが長い人ほど“一人領域”は多様化しています。ある時B子は「一人楽ですよ。だって誰かと一緒のときには恥ずかしいので大盛りは注文できませんから」と言っていました。一人定食屋をこよなく愛するB子は、たまたまカウンターで隣り合わせた男性と注文が同時になったため男性に大盛りが、B子に普通盛りが出され、「それは私が注文した大盛りなのに…」と首をかしげて大盛りを食べる男性をくやし涙で眺めたという逸話を持つ女性です。そんなB子は一人暮らし歴12年のベテラン女性です。
2010年の国勢調査によると、日本の一般世帯5,184万世帯のうち、一人暮らし世帯は1,679万世帯で32.4%を占め夫婦と子供から成る家族世帯の1,444万世帯(27.9%)を上回りました。「未婚化」「晩婚化」「独居老人化」が増加したところから一人世帯は増加の一途です。また近年女性が積極的に社会に関わる時代になったので、夫婦であっても趣味や嗜好の違いから夫婦がそれぞれ別行動をとるライフスタイルも当たり前化しています。このような社会の変化から“お一人様市場”が広がりを見せているのでしょう。
さて、お一人様は前述の若い世代の動向だけではなくなり、このごろは、熟年世代、老年世代にも市場は拡大しています。例えばゴルフです。これは私のお一人様体験なのですが、この3~4年で、“お一人様ゴルフ参加”が可能になっているゴルフ場が増加をしています。そのゴルフ場の会員でなくとも、一人参加を申し出ると、他の同様希望者と組み合わせをして一組が成立をしてプレーが可能となるやり方で、インターネットで簡単に申し込みが可能です。私もプレーする仲間を探すのが面倒になり、数年前よりネットでお一人様ゴルフにエントリーをして当日全く知らない3人の男性とゴルフを楽しむ、という遊び方を何回もやってきました。前述のB子からは「よく知らない人と1日過ごせますねー」と不思議がられますが、飲食店には一人で行けない私にとって全く知らない人とのゴルフは、自分に集中ができて楽しいゴルフです。同組になる人は95%が40代以上の男性達で、私と同様、仲間を誘うのが面倒な人々ですが、一人で参加するだけにゴルフを愛してマナーよく、そこそこの腕の方々なので、何ら問題は起きない快適ゴルフです。きっとB子がお一人様食事をラクと感じているのと同様の気楽さがあるのでしょうね。
もうひとつ、私の身近では、73歳の叔母が“お一人様ツアー”で毎回、国内や海外への旅行を楽しんでいます。その話を聞いた時は多少の驚きがありましたが、旅行会社が企画する一人参加を原則とするツアーで、集まった参加者は全員一人で来ているという同じスタンスの人達なので、お互いに一人に対し、旅に理解度があって、軽妙に距離を保ち時間共有をするそうです。叔母も定年退職後は友人を誘って旅行をしていましたが、スケジュール調整や行先調整や急なキャンセルなど、友人達と条件を合わせることが面倒になり4~5年前から“お一人様ツアー”を選ぶようになったそうです。これも前述の“一人の快適”なのですね。
単身世帯の増加・高齢化社会・ワークライフバランス等、“お一人様マーケット”は、まさに消費拡大の可能性を持つ動向ではないでしょうか。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2016年4月号掲載)