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2016.05.06

不動産フォーラム21

ハンドドリップのコーヒーをどうぞ!

 

 写真は宮崎市中心部にあるスペシャリティコーヒーの専門店です。店主は30代のイケメンと噂の男性。岡山出身だそうですが、サーフィンが趣味で海がきれいで程よく都会の宮崎市に移住し、世界から選りすぐりのコーヒー豆を仕入れおいしいコーヒーを提供する小さなコーヒーショップを昨年開業しました。

 

 私が行ったのは夕方4時頃。店は今どきのシンプル+ウッディな内装で10席程度の規模ですが、街中の裏道にあるのにもかかわらず何人かの客が次々に来店してきます。豆にはそれぞれ産地やつくり手を語るストーリーがあり、その日の気分や味の好みを店主が聞きながらお客様に適した豆を選びドリップやフレンチプレス(最近はやり始めたコーヒー抽出器具によるコーヒーの種類)で、1杯500円程度の香り高いコーヒーを提供してくれます。

 

 この店に小1時間ほどいて気付いたのは、お客様がみな一人で来店されること。店内は静かです。20代後半から40代と幅広い男女のお客様ですが、一人で来店され店主と二言三言言葉を交わし、後はコーヒーを飲みながら本を読んだり音楽を来たり。中には店の外のベンチに腰かけ愛犬と街の夕暮れを楽しんでいる女性客もいます。時間が清く静かに過ぎていく感じと言うと少々オーバーではありますが、新しいコーヒーショップのスタイルだなーと思いました。

 

 2~3年前からコーヒーショップは新潮流が生まれています。この15年間ですっかり街中に定着したシアトル系カフェのスターバックスはコーヒーマシーンでどんどんお客様をさばいていくスタイルでしたが、新潮流ショップは一杯一杯を丁寧にドリップで時間をかけてコーヒーを淹れていくタイプの店なのです。おのずと価値も高くなりスタバの2倍程度になります。この動きを新聞等ではサードウェーブコーヒーと呼んでいます。

 

 第1の波は高度成長期の大量生産・大量消費のコーヒー時代、生活の中に安価なコーヒーが根付きました。第2の波は前述のシアトル系コーヒーチェーンの台頭による深煎り高品質の豆を使ったコーヒーの時代。カフェオレやトッピング等も親しまれコーヒーの幅が広がりました。そして今の時代のサードウェーブはコーヒー豆の生産地へのこだわりや地球環境への配慮や焙煎状態にも気を配り、ハンドドリップで丁寧に淹れるスタイルが最大の特徴になります。私が行った宮崎市の店もバリスタである店長が、一杯一杯のコーヒーを時間をかけて淹れていました。これがサードウェーブコーヒーなのですが、私の見解ではもう一つの違いを感じています。それはお客様の店への期待です。この15年、私はシアトル系カフェを親しんできましたが、どこかで「?」な部分が蓄積され疲労してきたのではないかと感じます。列を作りメニュー表からブレンドなのかラテなのか等、トールなのかショートなのかを選ばされ、時には持ち帰り用の紙袋まで持たされ、にぎやかな店内、混み合った店内で時間を過ごさざるを得ないという店の都合に従うコーヒー店に嫌気がさしたのではないでしょうか。考えてみればスタバでの豆の話をされたこともなかったように思いますし、コーヒーマシーンで紙コップに注がれるコーヒーを「おいしいかも……」と思って飲んでいたわけで、そろそろ無意識の嫌悪感が顕在化してきたのかもしれません。サードウェーブコーヒーはホッとします。一人で行っても他人が気にならず、豆も産地も淹れ方も店とのコミュニケ―ションの中で味わう事が出来るのです。何より先月号のお一人様ではありませんが、お一人様が居心地がよいのがサードウェーブカフェの特徴かもしれません。

 

 実は日本のコーヒー文化から生まれた昭和時代の喫茶店は、かなりサードウェーブコーヒーっぽいので、今では街からなくなってしまいましたが、不動産が高い都心部には無理だとしても、宮崎の店のように地方都市や都心のはずれに、宮崎の店主のようなこだわりの若者が起業して、日本オリジナルのサードウェーブコーヒーとしての喫茶店が復活するかもしれませんね。ちょっと楽しみです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2016年5月号掲載)