不動産フォーラム21
偶数月15日の特需
「偶数月15日の特需」とは
私が昨年よりコンサルテーションをしている商業施設で不思議なことが起こっています。2月、4月、6月…と偶数月の15日になると決まって売上が上がる店舗があるのです。鮮魚店、精肉店、鰻屋、和菓子屋、自然食品専門店、寿司屋、ビアパブ、婦人服店などがその不思議現象の起こる店舗です。
一体全体何が起こっているのかしら? と探ってみると、なんとその日は年金支給日でした。毎偶数月の15日に65歳以上のシニアの方々に年金が支給されるので、気持ちに余裕と懐にうるおいのできたシニア層がお買物に来てくれていたというわけです。シニアのお客様に話を聞くと「普段だとちょっと贅沢かな、と控えている物や、日常品で保管のきくもの等は偶数月の15日を待って買物する。」のだそうです。高齢化社会の今、シニアの消費行動についてはそれなりに観察をしてきたつもりでしたが、この“偶数月15日の特需”は店舗という現場の中から知る事ができた貴重な体験です。
「今日は買いますよ!!」の笑顔
店がどんな様子なのでしょうか。
鮮魚店では普段にも増してパック詰めのお寿司がよく売れますが、数量もさることながら1,000円以上の高額品の売れ行きがよくなります。近頃“肉食系シニア”の話題がありますが、精肉店では60代シニアを中心に上等なステーキ肉の売上げが偶数月15日には伸びるため、この日に限り商品準備を欠かさぬようにしているそうです。中には事前に電話で15日用の肉を注文する定期購入シニアの顧客も生まれ、肉食系シニアも偶数月15日をスペシャルデイにしていることがうかがえますね。
和菓子屋の売上が伸びるのは予想の範囲なのですが、食物販で普段の15日より偶数月15日の売上が平均1.6倍にもなっているのが鰻屋です。この店舗には小さなイートインコーナーがありますが、この日はウェイティングが出るほどににぎわいます。またお弁当も2,000円台の特上が最もよく売れて売上ベースをつくっていくので“シニア層の鰻人気”と「今日は贅沢に」とで15日を特別な日としているシニア消費の様子がうかがえます。
女性ならではの偶数月15日傾向が見受けられるのはアパレルショップです。価格帯の安い婦人服店では、通りがかりのシニア女性達の立ち寄りが増えて売上を伸ばす傾向にありますが、客単価が3万円クラスのブランド力ある婦人服店では、15日の1~2週間前から顧客層の来店が増え、“15日をねらったお取り置き”がかなりの数になるそうです。本来、お取り置きは店として積極的にはやらない方針なのですが、15日に向けたお取り置きはスッポかされることのない確実な購買に結び付くことや、普段より高額品やセット購入になることから、“15日をねらったお取り置き”効果は大で、同じ15日で偶数月は奇数月の平均1.4倍の売上になっています。取り置きシニアレディは15日の開店と同時に「今日は買いますよ」とニコニコ顔で入店されるそうです。シニアになっても女性は新しいファッションを楽しみにしているのでしょうね。
レストランゾーンで売上増になる店がビアパブです。偶数月15日は昼間の早い時間から男性シニアが一人で、お仲間で、とビールを楽しみに来店されています。中にはやや飲みすぎでふらふらするシニアも……。お店のスタッフも注意の1日になるそうです。
毎月より2ヵ月に1度だからこその贅沢
2014年度で年金受給者は3,200万人を超えたといわれています。今は日本人の4人に1人が65歳以上のシニア世代ですから、偶数月15日の年金支給日に大勢のシニア層が消費活動を活発に行うのは当然の出来事なのです。
小売業界ではいち早くスーパー各社が毎月15日に5%~10%割引クーポン配布を行っています。百貨店でもハウスカードのポイント施策を強化しています。今後、高齢化社会がより強くなると年金支給がいつまで続くかわかりませんが、当面は“偶数月特需”に注目をして、シニア層の消費トリガーをつくりだしていけそうに思います。
業界仲間は「偶数月ではなく毎月15日に年金支給をしてくれるといいのに」と言っていますが。先行き不安の手堅いシニアは2ヵ月に一度のまとまった年金支給だからこそ、ちょっとのゼイタクグルメやちょっとのオシャレを許す気持ちになれるのでしょうね。次の10月15日が楽しみです。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2016年10月号掲載)