不動産フォーラム21
クルマとの付き合い方、今むかし
●こんなところに「車のショールーム!?」
最近人気のショッピングモールに行くと変わり種のショップのひとつに「車のショールーム」があります。従来感覚では幹線道路沿いにガラス張りのシャープな建物で広々空間にはピカピカの新車が何台も展示してあるのが車のショールームイメージでしたが、ショッピングモールの雑貨屋やアパレルショップの隣に車のショールームが店舗を構えていて小さな驚きがあります。
私が車のショールームとショッピングモールの相性に初めて気づいたのは3年前、「東京ミッドタウン日比谷」が開業した時、1Fにレクサスのカッコいいショールームとおしゃれなカフェが出店していて驚きました。本来なら有名ブランドショップが入店するような館の正面に“車”なので、日比谷という東京でも特別な場所であることやアパレル業界にも陰りが見えだした頃なので、こんな出店もあるのか…と少し意地悪な見方をしたのです。
その後徐々に郊外ショッピングモールに車のショールームが登場するようになりました。国産車であったり輸入車であったりショッピングモールの立地によって様々。「車にさほど関心のない女性客もショッピングモールで買物ついでにふらりとショールームに立ち寄ってくれ、それが買換えのチャンスにつながったりする」のだそうです。
あるショッピングモールの館長は「この辺は新興住宅地でファミリー客が多いが、モールで新車を見たミセスが週末にご主人を連れてくる。想像していたより女性客の車への食い付きがよい」と言っていました。
車メーカーのショッピングモール出店の戦略とは何なのでしょうか?
今はマス広告が効果を上げる時代ではなくなりテレビCMやマス媒体に宣伝コストをかけても消費者に響くことが薄くなった。逆に小規模であっても生活の身近なところにリアルな新車との出会いの場であるアンテナショップをつくることのほうが消費者の気持ちをとらえやすい。カフェやライフスタイルに関連するアクセサリーショップ等を併設して楽しんでいただく発想としてのアンテナショップの位置付けで新規顧客の獲得を狙っているわけです。
●なぞなぞ「むかしは5回、今は1.5回はなーに?」
答えは、新車購入時にショールームにお客様が通う回数。むかしは家族で、夫婦で、ご主人だけでショールームに通い、お目当ての車を眺め、パンフレットをもらい、試乗をし、ローンの相談などをするため、平均5回程度のショールーム来店があったのですが、今は平均1.5回程度と来店回数は減少しています。
その理由は簡単。めぼしい車についてはネット検索で情報収集をしているため、ショールーム来店の必要は最小限になっているのです。来店時には購入の腹積もりができているお客様が主流になっている状況からショールーム来店回数は減少傾向となり、幹線道路で立地の良いショールームがマンションやオフィスビルに建て替えられるというケースが増加しています。
またむかしは力のある車の営業マンは販売後もアフターサーフォロー等を顧客に対してマメに行い買換え需要を掘り起こしていましたが、今はネット情報で車の購入が決定されるため、営業マンそのものの存在も不要ではないか、と言われるようになっています。
ショッピングモールのアンテナショップといいネット検索で購入決定といい、暮らしの中で車の位置付けが変わってきた証です。
●実はコロナ禍で車が売れている
若者の車ばなれ、所有時代から共有時代の表れ、カーシェアリングの普及、など車が売れない話が続いています。当然に日本の人口は減少の一途、公共交通は便利になり飛行機も安くなっています。
よって車は売れていないのか、と思いきや、実は昨年秋以来、9ヶ月連続で国産車、輸入車ともに普通乗用車の新車販売台数は20%~38%と増加傾向にあります。「あれ、車の販売は減少傾向だったのでは?」と思っていましたし、コロナ禍で経済も低迷傾向にあったので意外なデータに驚いたのですが、増加要因がいくつか見えてきました。
一つは巣ごもりにより情報収集時間ができた客による新規や買換え購入数の増加、二つめは、旅行等の外出規制による支出減少からお金に余裕ある客の新規購入、三つめはカーシェアリングやレンタカー等、感染リスクが高い他者利用の車を避けたい新規客の増加、等、コロナ禍特有の状況が見えてきました。
特にお金あまり傾向はかなり顕著で、ある輸入車ディーラーによると近年は平均購入額550万円だったものが、昨年来750万円にアップしており、自動運転システム等へのニーズの高まりもあり高性能車の売上が伸びているそうです。
コロナが終息した次の時代に、私たちは車とどんな付き合い方になっているのでしょうか。楽しみな分野ですね。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年8月号掲載)