日経MJ
変化・成長 街と共に -「流山おおたかの森SC」に新施設-
「流山おおたかの森ショッピングセンター(SC)」(千葉県流山市)に今年3月、新たな賑わいステージとして「FLAPS(フラップス)」がオープンした。隣接した広場も街のリビングルームのように大勢の街の人が集まっている。ディベロッパーが進めてきた街づくりに注目し、魅力創造のポイントを観察した。
豊かな緑やテラス、交流促す
久しぶりにおおたかの森に行って驚いた。記憶とは異なるすてきな街に変わっていたのだ。以前は漠然とした駅前にポツンとSCが建ち寂しい景色だった。今は緑あふれる都市広場を囲む複数の商業施設と中層マンション群がみえ、モダンなニュータウンの景観が広がっている。
都市広場では赤ちゃん連れのママ達が木陰でくつろぎ、子供たちが輪になり大道芸に歓声を上げている。テラスにはお弁当をひろげる老夫婦もいて豊かな緑とヒューマンスケールな都市広場がもたらす平和な情景が広がっていた。
2007年に本館(約160店舗)は開業したが、ディベロッパーの東神開発は駅周辺に医療や金融、学習塾、飲食店等が入居した5施設を建て、3月に6施設目となる「フラップス」を開業させた。
街の成長に合わせ必要とされる都市機能を足し算していく街づくりを実践してきたわけだが、二子玉川周辺を約50年かけ人気ある街に育て上げた実践ある企業だけに、おおたかの森でも地に足の着いた歩みを続けている。
進化の背景には流山が全国で屈指の人口増の市で、2007年に15.5万人が2021年には20.1万人となった。30代人口が全体の15%を占め若いファミリーが多い状況がある。
市が2005年のつくばエクスプレス開通を機に東京から約25分の地の利をPRし、積極的なシティセールスを実行した成果である。駅前における街づくりも「流山市と長年タッグを組んで森のタウンセターをコンセプトに住民ニーズを拾い上げ、住みよい街のモデルづくりを進めてきた」と東神開発で施設計画を担当する吉田孝史次長は言う。
今年3月、フラップス(27店舗)」は南口駅前を形づくる最後の1区画に建てられた。整備された都市広場)と同時期にお披露目となった。フラップスの計画はマウントフジアーキテクツスタジオの原田真宏氏・原田麻魚氏が一体的整備として都市広場やデッキを含め担当した。
6層ひな壇状の建物には各階にテラスが設けられ、街が眺望できたり広場や本館の人の動きが身近に感じられる居心地良い空間だ。都市広場には本館とフラップスをつなぐ弧を描いたデッキが配置され個性を放っている。
デッキはケボニー材という天然木材が使われ、テラスや都市広場のベンチにも使用された。「森のまち」のイメージを持つ流山市と地名由来のオオタカの生息する森を印象付ける広場の雰囲気あるキーアイテムになっている。天然素材ゆえに経年で色や風合いが変わっていくそうで数年後の空間の変化が楽しみだ。
2007年当時、本館へは複数回訪れた。1階に高島屋がグルメスーパーを展開し、ファッション店や雑貨店、レストラン街も玉川高島屋SCを彷彿とさせる高級感やおしゃれ感を持ち、そのクオリティーを来館者がどのように受け止めるかに興味があった。
今ではこなれた施設に進化し街の人々の支持が厚い。くわえて、さすがだと感心したのは当時、郊外SCでは箱型の大規模モール開発が主流だった中で、本館は当時からテラスや外に向かって開口部を大きく取り、館内には程よい規模の吹き抜けとトップライトを絡ませ植栽で演出するというしゃれた空間演出を行っていたことが印象的だった。
どこの郊外SCも「大規模」に目が向いていた時代のナチュラル&ヒューマンスケールの空間提案が異彩を放っていた。あれから14年が経過し、この考え方は6施設全ての源流として受け継がれていることに改めて気付かされた。
「使用電力は昨年来の開発施設から100%再生可能エネルギー由来に切り替えた。SDGsへの取り組みはこれからも積極的に展開する」と話す千葉事業部の小池貴部長は、年に1度開催される「グラフィックアワード」の審査員でもある。市民から作品を募集し、優秀作品をSCでコミュニケーションツールとして活用する取り組みで、若い世代が多い街を文化・アートの街に育てる活動の一端だ。
またフラップスの4階のアートスペースは自由に立ち寄れる場でアート作品が展示されている。夏にはフードバンクを実施し、地域の子供食堂への支援を行っていく準備をスタートさせている。
サスティナブル・SDGsが時代の合言葉となる今、人口が増え若い世代が街の主役となるおおたかの森がデッキの天然材のように時間経過の中でどんな街の地域コミュニティを育て、街の色を変えていくのか楽しみである。
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2021年(令和3年)7月7日(水)掲載)