MAGAZINE

2020.12.10

販売士

ジェンダーレスという新潮流

  

●“男物or女物”は重要ですか?
 札幌の地域一番店といわれる百貨店をブラブラしていた時の事です。ラグジュアリーブランドが集まるフロアで今年の秋冬コレクションをチェックしようと思い、店から店へのはしごをしてみました。
 
 Sショップに入り、まず左側のレディスゾーンからチェック。中央のバッグや靴の雑貨ゾーンを通り過ぎてメンズゾーンに足を踏み入れた時「お客様、こちらはメンズゾーンでございます」と声がかかりました。「分かってますよ。分かっていますとも‼」と心の中で呟き、店員さんにニコッと笑顔を向けてからメンズコレクションをゆっくり見せてもらいました。店員さんは遠巻きに私を観察し「大丈夫かしら?」というような微妙な顔をしていました。
 
 次に隣のDショップへ。綺麗なオータムカラーのニットを何気なく手に取ると店員さんから「そちらは男物なんですよ」と声がかかりました。「知ってますよー。綺麗な色だから私にも着れるかなと思って」とまた心の中で呟き、品を棚に戻しました。
 
 さらにバッグが人気のPショップへ。正面に店員さんが待ち構えています。私の足が左に向いた瞬間に「こちらはメンズバッグです。定番のPバッグは右奥にございます。」と案内がかかりました。その言葉を無視して左のメンズバッグゾーンに入りひと回り。後ろから付いてきた店員さんは「何かギフトをお探しですか?」と話しかけてきました。さすがに3回目の“男物チェック”に辟易した私が「メンズバッグでも気に入れば女性が持ってもかまわないんじゃない?」と答えるとちょっと慌てた店員さんは「もちろんです。ヘヘッ」と笑いました。
 
 男性が身につけたり持ち歩いたりするのにふさわしく作った品物を男物、女物も然りとするのはそろそろ終わる時代ではないでしょうか、店員さん。ちょっと感覚が古くないですか?!
 
 

●ジェンダーレスという潮流
 ジェンダーレスとは生物学的な性差にとらわれた固定概念を持つことやめ、社会的・文化的な性差をなくそうという考え方を表した言葉です。ファッションの世界ではすでに7~8年前からジェンダーレス的な傾向がデザインに表現され始めていましたが、今では有名ブランドのデザイナーや若手デザイナーが男女差を排除したファッションデザインをシーズン毎に提案し話題になっています。
 
 日本でもジェンダーレスファッションはすでに一般的な人気ブランドとしていくつも誕生し、若者を中心に拡大しています。商品企画にレディス・メンズという概念を持たず、人が個性を発揮できるデザインとしての物づくりをしています。もちろんサイズ展開はありますが、男女関係なしに自分なりの着こなしを楽しめるブランドとして、複数のブランドが消費者支持を受けています。
 
 靴もバッグもアクセサリーも同様にデザインされており、あるデザイナーは「ジェンダーが問われるのは、アンダーウェアをデザインする時だけ」と言い切っています。このジェンダーレス潮流を考察するとすでに男らしさや女らしさという言葉でファッションを語る時代が終わりつつあるのだと感じます。
 
 

●リアルな日常に登場しているジェンダーレス
 靴もバッグもアクセサリーも同様にデザインされており、あるデザイナーは「ジェンダーが問われるのは、アンダーウェアをデザインする時だけ」と言い切っています。このジェンダーレス潮流を考察するとすでに男らしさや女らしさという言葉でファッションを語る時代が終わりつつあるのだと感じます。
 
 また日本の動きでは文具大手のコクヨが性別欄のない履歴書用紙を来春から販売する事がニュースになりました。そうそう、ランドセルの男女差をなくしていこうというムーブメントはすでに2000年代初頭から始まっていますよね。
 
 知人が店長をする国産オーガニックコスメのショップには数年前から男性客が増加し、顧客としてスキンケア商品を買い上げてくれるそうです。「基本は女性をターゲットにしたコスメですが、店構えが開放的で入店しやすくオーガニックコスメ特有のシンプルナチュラルなパッケージデザインのため、男性客にも受け入れてもらいやすかったらしい。こちらが男性客を招き入れたというよりスキンケアニーズを持った男性客がこのブランドを探し当ててくれたという感じ」と店長は話しています。
 
 百貨店の伊勢丹メンズ館でも女性客がクールな香りが良いと男性向けコロンを購入したり、ソフトレザーの男性用ビジネスバッグを使い勝手が良いと女性客が買っていく話は有名です。以前からお洒落な人は男性であってもレディスのTシャツやジャケットをコンパクトデザインとして好んで着ていましたし、女性でもオーバーサイズファッションとしてメンズのニットやアウターを楽しんできました。
 
 
 いつの時代からか男女を区別した商品と売り方や、年齢を区切った商品や売り方で市場を拡大してきた消費社会ですが、これからは性差はもちろん年齢差も作り手・売り手側が区別することなく個性に向けた市場を意識して提案する時代になっていくはずです。男物・女物は死語になっていくのでしょうね。

 
 

(記:島村 美由紀/販売士 第39号(令和2年12月10日発行)女性視点の店づくり㉔掲載)