不動産フォーラム21
超えてるアジアの本屋空間
本屋に行くのが楽しみ。書棚を覗き気になる本を手に取りページをめくった時に「この本、面白そうだ!」と一目惚れのように本と巡り合う瞬間に嬉しさを感じました。でも、この楽しみ方をすっかり忘れてしまって数年がたちます。今では新聞や雑誌の書評や口コミを頼りにECサイトで本を取り寄せてしまい、本との一目惚れ体験は遠い過去の思い出になっています。本との楽しみを捨ててしまってもったいない気持ちは大いにあるのですが、ついECが便利で本屋行きが面倒だと感じてしまう昨今です。
ところが、1月にバンコクと上海、シンガポールですばらしい本屋をいくつか体験しました。日本でもTSUTAYAを代表とする進化形本屋が話題になっていますが、さらに進化したアジア圏の本屋をご紹介いたしましょう。
Co-Living → 共同生活空間としての本屋
バンコク中心部のSC「セントラルエンバシー」の6階に“OPEN HOUSE”というステキな本屋が昨年3月に開店しました。商業施設の1フロア全てがこの店で、中央に本屋、左右に小規模レストランやカフェやバーが12店配置され、キッズのプレースペースや雑貨ショップも併設されているという超大型複合書店です。
空間がすばらしく、天井の高さに対し明るい光や植物の配置、そしてそこにモダンデザインのショップや家具が並んでいるおしゃれで気持ちのよい大空間です。オーナーはバンコク市内の大手書籍店だそうですが「Co-Living → 共同生活空間」と定められたコンセプトのとおり、来店した人たちそれぞれが興味ある本と出合い、カフェで、レストランで、書棚の脇のソファで、緑に囲まれたテラスチェアで、それぞれの本と一緒の居場所を見つけて時間を楽しむ姿は豊かな光景でした。もちろん、食事だけのカップル、打ち合わせをカフェでする男性たち、子どもをプレーゾーンで遊ばせるママもいて、本屋だけではない複合的な都会の共同生活空間の意味を理解させてくれたステキな本屋です。
都会の中の隠れ家ライブラリー
ところ変わって上海中心部の“百新書局”という大型書店も居心地のよい新しい本屋です。聞く話によると文房具店が経営する本屋だそうで店の3分の1は東急ハンズのその売り場をおしゃれにしたような種類豊富な文具をそろえています。本屋スペースはやわらかい木調仕上げで穏やかな空気が流れています。本屋の中心に青年バリスタのいるコーヒーカウンターがありこの青年がハンドドリップコーヒーやラテアート等こだわりのあるコーヒーを出してくれるのですが、英語や日本語も話せ「お待たせしてすみません。少し急いでしまったのでラテアートがきれいでなくてごめんなさい。」などと言ってくれ、本屋のバリスタとしては超好感度青年でした。
さて、メザニンフロアに上がっていくと、カウンター席、個室、ミーティングルーム等がそろっている隠れ家的読書スペースになっていました。外では中国の人は声が大きくにぎやかですが、この書店の中では皆が静かに読書や自習や小声のミーティングをしています。“町の喧騒から逃れられる私の思考空間”とでも言えるような気の利いた大型店です。
シンガポールのサンセットというターミナル駅の真上にあるショッピングセンター3階、4階にシンガポールパブリックライブラリーがあり(本屋ではありませんが)これも“町の喧騒から逃れられる自分だけの思考空間”のすばらしいステージです。私はこの存在を全く知らずに原宿のような店が並ぶ館内をブラブラしていたら、突然スタイリッシュな空間につきあたり中に入っていくとそれが公共図書館だったという出合い方でした。雑踏の街とは異空間となるこのライブラリーは、眼下の緑を眺めながら自分の読書、学習時間が楽しめるの最高の空間。なによりインテリアがすばらしく、どんな来館者も学者、研究者に見えるようなカッコよさでした。
昨年来の報道によると日本中で書店数は減少傾向にありこの15年間で40%強がなくなっているそうです。人口減少、活字離れ、雑誌市場規模の縮小、ネットショッピングの台頭と減少原因はすぐに思い当ります。が、ご紹介したような本を買いに行く本屋ではなく本と出合う、本と過ごす、自分を思考する等々、豊かな時間価値の提供があると、お気に入りの本屋にお気に入りの時間を求めて私達の足は本屋に向かうのではないかと外国の街で感じました。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2018年3月号掲載)