この10年間、春と秋に渋谷・原宿・青山界隈のファッション定点観測をやってきました。テーマはトレンドファションの浸透度合いで街行く女性や男性を観察してきましたが、10年間で最も変化があったのは「お洒落なミドルエイジ（40代、50代、60代）男性が増えてきたことです。
　スタート当時は若い男性だけにトレンドが見受けられましたが、5年前ぐらいからミドルエイジの男性もカッコいい人が急増しています。このオジ様たちは人生経験もあり、生きざまを持って自分の好みをわかったお洒落スタイルであり、若者より堂々としていて素敵なのでつい写真の枚数も増えてしまいます。
　東京のド真ん中のトレンドスポットだからこその話ではありますが、オジ様のオシャレ感度も上向いている様子がわかります。

男性のファッション感度は上昇中!?

　仕事柄、長年全国の主要都市に行き、街行く人々のファッション感度を写真に収めていますが、確実にどこでも男性の感度が上がってきた実感があります。いわゆる休日のオヤジのジャージやサンダル履きのゆるい姿が激減し、代わりにデニムやチノパン、Tシャツやパーカーにスニーカーというきれい目なカジュアルファッションが全国的に急増しています。その理由はユニクロを代表とする安価でシンプルなカジュアル衣料店舗が日本中に増え、ミドルエイジの男性達もその波に乗ったことは言うまでもありません。また今の現役世代のオジ様たちは1960年代～1970年代生まれの人たちなので、先輩世代のアイビーファッションやデザイナー・キャラクターブランドを経験してきた世代、70～80年代の西海岸ブームでサーフファッションやアメリカンカジュアルファッションを楽しんだ世代でもありますから、基本的にきれい目なカジュアルファッションの素要は持ち合わせている人たちです。
　そこに多様な衣料店舗の開発が進んできましたので、オジ様方のお洒落感度のボトムアップが全国的に図られてきたわけです。中にはリュックや斜め掛けポーチ、ソフト帽等も組み合わせる男性達も増え、ずいぶんと休日のオジ様ファッションには幅が生まれてきました。

男性の情報収取能力とは？

　ある時、ゴルフ仲間の60代男性が「明日は背広ゴルフだよ」と話し始めました。高校時代の同級生ゴルフ大会のことだそうで、リタイヤ後にサラリーマン時代に着ていたスーツをもったいないからゴルフパンツとして代用したり、クラブハウスに出向くジャケット代わりにしたりする男性達が多くいて、ダサいと感じた知人が皮肉を込めて“背広ゴルフ”と呼んでいるのです。彼いわく「みんなゴルフ好きで、TVや雑誌でトーナメントをよく見て知識も豊富なのに、なぜプロ選手のゴルフファッションが目に入らないのか、自分もカッコよく真似てみようと思わないのか不思議」といいます。私もまったく同感です。ゴルフ場に行くと、地面に埋もれてしまいそうな黒・紺・茶色の男性ゴルファーは確かに多い。見た目に楽しくはありません。
　こんな話から、男性と女性の情報収集能力の違いを考えてみました。今の時代、女性でもわざわざファッション雑誌を買ってトレンドをチェックする人は少数派ですが、敏感な人でなくてもテレビでタレントやニュースキャスターの女性の姿から、傾向をぼんやり認識したり、車中や街中で今年のはやりに気付いたりすることで、その意識が次の購入につながっていくものです。わざわざではなく無意識のうちの意識みたいなもので情報を拾っているわけです。男性はどうでしょうか？同じようにTVや車中や街中から情報を拾う量の違いが男女では大きいのではないかと思います。
　一般的に女性は自分を若くきれいに見せたいというセルフブランディング意識を持っています。男性もその意識は年々上がってきている様子ですが、情報収集能力ではまだ格差があるのかもしれません。

　特急列車のグリーン席ポケットにある通販カタログをめくって気が付いたことがあります。通販雑誌にテッパンであるガーデニングや美容・健康用品の他に、ビジネスグッズ・メンズグッズ・レジャートラベルというカテゴリーで男性ファッションや靴やカバンがたくさん掲載されているのです。女性のものは少数のみ。車中のすき間時間で「そういえばサイフが古くなったから」「次の旅行のジャンパーでも」というオジ様ニーズにねらいを絞った作戦なのですね。便利ではありますがどれも買いやすさを狙ってかデザインは平凡。すき間時間での情報収集ではセルフブランディングの成果は上がりにくいかも…。
　みんなが長く生きる時代です。男性も女性もカッコよく若々しく、人生時間を楽しみたいものです。

(記：島村 美由紀/不動産フォーラム21　2018年4月号掲載)