不動産フォーラム21
コンビニ感覚の家電屋が魅力的
●凝縮が楽しさを生む“家電コンビニ”感覚
百貨店から専門店ビル生まれに変わった「西武所沢SC」6階に1,000坪の小さな「ビックカメラ所沢駅前店」ができ、楽しめる家電屋で気に入っています。何がおもしろさのポイントかというと、“家電コンビニ”といった感覚で、1,000坪の小スペースにビックカメラの定番商品や一押し商品が、まるでドン・キホーテのように圧縮陳列されているのです。
エスカレーターで6階に上がると、充実したお酒コーナーがありその真ん中には洒落たデザインの試飲カウンターが15席も陣取っています。専任のソムリエがいて、気の利いた対応をしてくれ65種のお酒が500円前後でお試しできます。従来のビックカメラでも酒類販売はしていましたが、何となく安っぽい店内で漠然とした売場のため購買意欲を掻き立てられることはありませんでしたが、この店は什器がデザイン化され、お酒の陳列に工夫があり試飲カウンターも本格的で買う気になります。お酒の隣は菓子やつまみを売っています。商品量は専門店にかないませんが、それなりにこだわった輸入菓子やグロサリーが揃っていて、衝動買い誘発の楽しいコーナーです。さらに、その周辺にはおもちゃや化粧品、日用品、ビューティー家電や健康家電にフィットネス用品、そしてキッチン家電もあり、女性の日常目線でとらえた気になる分野がコンパクトに揃っていて、「何か面白いモノないかなあ~」とブラブラ買物気分にさせてくれます。
もちろんビックカメラですから家電も充実。白物家電、パソコン、エアコン、スマホ、ゲームソフトにテレビと揃っています。たったの1,000坪なのに家電と日常品が上手に凝縮され楽しそうな売場をつくっています。
西武所沢SCはB1にデパ地下食品、1Fに銘菓と新フードホール、2Fはシャネルやオーガニックの化粧品、3Fアパレル、4F無印良品、5FロフトやGU、7Fユザワヤ・ペットショップ、8Fレストランと、所沢地域を代表する商業施設として老若男女が集まるクオリティMDを展開しています。いままでの家電屋とは縁のない客層が過半です。リニューアル後に入館した女性客から聞こえてくるのが、「あら、家電屋さんておもしろいところだったのネ。知らなかった‼」という声だそうで、私も同感でした。
●小型化で遠い存在を近い存在に
女性の多くがなぜ家電屋を身近に感じていなかったのかを考えてみると、買い替えや新規購入等、具体的動機付けがないと家電屋には行く用事がありません。男性のようにメカ好きが新機種をチェックするようなアクション(女性がファッションショップを何となくのぞくような)は皆無です。しかし近年の家電屋には非家電商品群と呼ばれている酒・寝具・ブランドバッグ・文具・書籍・おもちゃ・食品・自転車・旅行バッグ・化粧品・医薬品・日用品・メガネ・コンタクトレンズ・ゴルフ用品・ベビー用品まで扱っているので、百貨店以上の品揃えになっています。立派な品揃えなのに、百貨店であれば時たまブラブラショッピングに行くのに、家電屋だと行かないのは、多くの女性が家電屋の近年の充実した品揃えを知らないことと売場づくりが雑多で商品の価値を感じにくい、売場が広くてわかりにくい。何となくザワザワして落ち着かない…。とどのつまりは良い品があるのに魅力的な売場が女性のために用意されていないことが問題だったのではないでしょうか。
「ビックカメラ所沢駅前店」に行くと発見がありました。キッチン家電も女性が多忙で時短の時代ですからお手軽調理器が多様化していますし、美と健康を求める時代の美容家電も知らなかった機種がたくさんあります。住宅のリフォームを手掛けるカウンターもあるのには驚きました。私はブラブラショッピングをして、スマホのイヤホンとまつげホットビューラーに使い付けの化粧品を購入。そしてワインのテイスティングを2杯と楽しいショッピングタイムでした。ある所沢マダムが“楽しめるビック”とインスタにアップしていましたが、所沢ではこんなファンが増えているようです。
すでに「ビックカメラ」は昨年あたりから小型出店を所沢のように新しい客層がねらえる百貨店やショッピングセンターの中で推進しています。ECで家電も買える時代ですが、小型化することで多くの生活者の身近に顔を出しやすくなった家電屋のあり方は、これからの小売業のヒントになるのではないでしょうか。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2020年1月号掲載)